研究課題/領域番号 |
23659875
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
吉垣 純子 日本大学, 歯学部, 教授 (40256904)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 唾液腺 / 分泌顆粒 / 開口放出 / シグナル配列 / HaloTag |
研究概要 |
分泌顆粒の形成から開口放出までのライブイメージングを目指して,蛍光リガンド結合タンパク質であるHaloTagタンパク質を耳下腺腺房細胞の初代培養細胞に発現させる系を立ち上げた。耳下腺の分泌タンパク質であるアミラーゼ遺伝子の部分配列をクローニングしてHaloTagとの融合遺伝子を作成し,アデノウイルスベクターに組み込んで,腺房細胞に導入した。その結果,HaloTagは細胞に効率よく発現し,HaloTagリガンドであるTMR蛍光試薬によりラベルされ,生細胞での観察が容易であることがわかった。作成した融合遺伝子のうち,アミラーゼのシグナル配列のみを結合したHaloTagが,アミラーゼと細胞内局在が一致していた。また,βアドレナリン受容体アゴニストであるイソプロテレノール依存的に分泌されたことから,HaloTagタンパク質が分泌顆粒へ輸送されたことが確認できた。 これまで,唾液腺の分泌顆粒のライブイメージングは様々な方法で試みられていたが,顆粒を維持した培養細胞が確立していなかったため,困難であった。培養細胞の代わりに,in vivo,または組織から単離した直後の細胞を用いての研究が試みられてきたが,遺伝子操作が難しいために,解析に限りがあった。しかし,本研究で作成したHaloTag発現系を,我々が以前から開発してきた初代培養細胞系と組み合わせることにより,分泌顆粒への外来タンパク質の輸送を容易に観察できるようになった。しかも,HaloTagタンパク質は蛍光リガンドの添加により観察を行うため,蛍光の強さが調節でき,減衰しにくいため,比較的長時間の観察にも耐えうる。蛍光リガンドを結合させた後のHaloTagタンパク質の電気泳動後の検出も容易かつ感度が高いため,少ない細胞で生化学的な解析も効率よく行える。本システムにより,唾液腺の顆粒形成および開口放出の解析が進むことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,1) 耳下腺腺房細胞の分泌顆粒にHaloTagタンパク質を発現させて,蛍光リガンドで特異的にラベルすることにより,生きた細胞で分泌顆粒を観察するシステムを立ち上げること,そして2) 新旧の分泌顆粒を染め分けて,顆粒の成熟度と開口放出効率の関連を解析することの2つを目標とした。 平成23年度の研究によって,アミラーゼ部分配列とHaloTagタンパク質との融合遺伝子を複数種類作成し,アデノウイルスベクターに組み込んだ。組換えアデノウイルスの作成・増幅を行い,耳下腺腺房細胞の初代培養細胞への感染効率や外来遺伝子の発現チェックを行った。いくつかのアミラーゼ融合HaloTagタンパク質を発現させたが,アミラーゼのシグナル配列のみを持ったHaloTagタンパク質が分泌顆粒へ効率よく輸送されることを明らかにした。この結果,生きた細胞で特異的に分泌顆粒をラベルすることが可能になった。共焦点レーザー顕微鏡上で生きたまま細胞を観察するための灌流系も立ち上げ,刺激依存的な開口放出を観察することができるようになったため,第1の目的はすでに達成できたといえる。 また,目標2)については,2色の蛍光リガンドで新旧の染め分けを試み,ラベルの時間を変えることにより,それぞれの蛍光リガンドでラベルされる顆粒の割合が変わることを確認した。したがって,顆粒の成熟度を形態から定量化できると期待される。現在,蛍光リガンドでラベルした細胞から分泌顆粒を精製し,パーコール密度勾配遠心により成熟顆粒と未成熟顆粒を分離している。成熟顆粒は未成熟顆粒に比べて密度が大きいと言われており,HaloTagリガンドによるラベルの差が成熟度と一致するかを確認中である。平成24度は,新旧の分泌顆粒を染め分けた状態での開口放出を定量化し,顆粒の成熟度と開口放出効率の関連を決定できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1. 分泌顆粒の成熟および開口放出の観察 分泌顆粒および開口放出のライブイメージング解析を行う。HaloTagタンパク質の発現後に時間を変えて,波長の異なる蛍光色素リガンドを添加すると,タンパク質合成されてから時間の経っているHaloTagと新しく合成されたHaloTagを染め分けることができる。この方法により,古い分泌顆粒(成熟顆粒)と新しい分泌顆粒(未成熟顆粒)を生きた状態で見分けることが可能になる。タイムラプス測定により,開口放出した分泌顆粒の成熟度を1個ずつ記録し,開口放出の効率と分泌顆粒の成熟度の関係を解析する。非刺激時と刺激時の開口放出を比較し,数理解析を行うことによって,分泌顆粒の成熟と開口放出の共役が存在するのか,また,その場合,共役はどのように制御されているかを解析する。2. 分泌顆粒へのタンパク質の輸送メカニズム 分泌タンパク質が小胞体内へ輸送される際に,シグナル配列は切断されるはずである。したがって,今回用いたHaloTagがゴルジ装置で選別を受ける時点では,アミラーゼ由来の配列はすでに含まれていない。それにも関わらず分泌顆粒へ輸送されることから,ゴルジ装置における分泌顆粒への積込みには特別なシグナルは必要不可欠ではないと考えられた。しかし,この現象がHaloTag特異的なものであり,HaloTagタンパク質上にたまたま顆粒への輸送シグナルが存在した可能性も残っている。そこで,アミラーゼのシグナル配列の存在が顆粒への輸送への必要十分条件であるかを確認するために,シグナル配列をHaloTag以外のレポータータンパク質につなげて,HaloTagと同様のシステムで細胞に発現させる。分泌顆粒への輸送効率を解析することによって,ゴルジ装置における分泌タンパク質のソーティング機構について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究に用いる細胞培養装置,共焦点レーザー顕微鏡,ウエスタンブロット解析に必要な蛍光イメージアナライザーは,すでに当研究機関に備わっており,共同に使用できる環境である。また,画像解析に必要なIMARIS 3次元計測オプションモジュールMeasurement Pro7およびTrackは昨年度に既に購入済みであるので,これらのソフトウエアを用いてタイムラプス解析を行う。そのため,本年度の予算は消耗品の購入にあてる予定である。 分泌顆粒のライブイメージングおよび刺激依存的な分泌効率の計測には,蛍光リガンドであるHaloTagリガンド試薬を用いる。HaloTagリガンドは,新旧の分泌顆粒の染め分けに必須であるため,波長の異なる複数種類の蛍光リガンドを購入する(4個×75,000円)。 新たに,HaloTag以外のレポータータンパク質をアデノウイルスベクターに組み込んだ発現系を作成する。そのための,遺伝子組換え用試薬およびアデノウイルス精製キット(100,000円)を購入する。また,唾液腺細胞には分泌顆粒を維持した培養細胞が確立していない。したがって,実験ごとに動物から唾液腺の採取を行い,初代培養することが必要であるため,実験動物としてラット(50頭×2,000円)を購入する予定である。その他,細胞培養用のフラスコおよびピペットなどのプラスチック器具を購入する(4個×25,000円)。
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