本研究は、異常ハンチンチン遺伝子が細胞内で発現すると、DNA二重鎖切断(DSB)修復に必要なKu70タンパクが枯渇することから、放射線が照射された場合、DSB修復が抑制され、腫瘍細胞が放射線増感増を示すのではないかという仮説を検証するものである。まず、ハンチントン病の原因遺伝子ハンチンチンの第1エクソンに、CAG配列を88コピー有する遺伝子(EGFP-Q88)をEGFPと融合させ、かつドキソルビシン(DOX)存在下で発現する細胞モデルを用いて実験を行った。EGFP-Q88細胞に100 ng/ml DOX処理すると、1)細胞質にのみび漫性にEGFP蛍光を発する細胞、2)核内、あるいは核周囲に限局的に凝集体と思われる強い蛍光を発する細胞、が検出された。そこで、2 Gy照射後のDSB 数を53BP1の免疫染色によるフォーカス数を指標にして、種々の時間後にDSB数を計測した結果、照射24時間後、2) の細胞においてのみ、DSBの修復抑制が認められた。また、EGFP-Q88にDOX処理した細胞全体の放射線感受性をコロニー法によって求めると、DOX未処理細胞に比べ、わずかに放射線感受性を示した。このことは、当初考えた仮説が成立することを示唆しており、すべての細胞が2)のように高発現すれば、より高い増感効果が得られるものと考えられた。舌癌細胞(SAS)にEGFP-Q88をCMVプロモーターのもとに発現するプラスミドを導入したが、導入効率が悪く、上記2) のような細胞は検出されなかった。未発現細胞と比べ、放射線照射後の細胞死に有意な違いは認められなかった。今後、治療への応用を考えるためには、アデノやレンチウイルス等の発現ベクターを利用して、より高い発現を効率よく誘導する必要があると考えられ、さらなる検討が必要である。
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