本研究では骨髄レベルから末梢リンパ組織に至る免疫細胞の分化成熟過程で、エストロジェンを中心とした性ホルモンの作用点あるいは作用機序を解明するとともに、様々な免疫細胞が性ホルモンによってどのような制御を受けているのかを明らかにすることによって、自己免疫疾患の発症機序との関連を理解することを目指す。具体的には、アンドロジェンからエストロジェンへの変換酵素であるアロマターゼの遺伝子欠損マウスを用いることによって、個体発生時からのエストロジェン欠損状態の観察が可能となる。加えて、アロマターゼ遺伝子欠損マウスはシェーグレン症候群様の自己免疫疾患が自然発症することがすでに報告されている。 申請者らは別ラインであるアロマターゼノックアウト(ArKO)マウスに関して、病態解析を行ったところ、12ヶ月齢を経過した時点で唾液腺、涙腺に限局した炎症性病変を確認した。免疫組織学的染色の結果、局所に浸潤している細胞の大部分がCD4陽性T細胞であることが示された。また、ArKOマウスの唾液腺では、炎症性サイトカインであるIFN-γのmRNA発現が有意に高いことが示された。これらのことから、CD4陽性T細胞が産生するIFN-γが炎症を誘起していることが示唆される。一方、頸部リンパ節における免疫細胞分画について解析を行った結果、ArKOマウスでは樹状細胞およびマクロファージの割合が顕著に増加していることが明らかになった。 また、アロマターゼを欠損すると肥満を発症することが報告されているが、肥満脂肪組織に浸潤する免疫細胞を解析したところ、マクロファージが多いことが示された。したがって、マクロファージを介してCD4陽性T細胞が活性化されることにより炎症が誘起される可能性が示された。さらに、本研究により自己免疫疾患と肥満とが関連している可能性も示唆された。
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