歯の破折に対する防止策を探求することを目的として、カルボジイミドによるコラーゲン分子間架橋形成による象牙質の強化効果を検索した。 本年度は、カルボジイミドによってタイプ1コラーゲンに起こる分子化学変化をスピン磁気共鳴法(ESR)および核磁気共鳴法(NMR)にて検索した。そこでは、コラーゲンの構成アミノ酸であるグリシンとプロリンあるいはグリシンとプロリンのモデルペプチド5量体に様々な条件でカルボジイミド処理して、起こる 化学変化を詳細に検討した。 ESRの結果、カルボジイミド処理によってコラーゲンの主たる構成アミノ酸であるグリシンには変化がないものの、プロリンからはハイドロキ シラジカルおよびカルボキシラジカルが複合して発生していることが分かった。 続いて炭素原子の変化に焦点を当てたNMRの結果、アミノ酸基軸CH2およびCH3基の反応のみならず、プロリンのカルボニル基が関わる 部分も顕著に変化していた。 以上のESRおよびNMRの結果より、カルボジイミドによりコラーゲンの主たる構成アミノ酸であるプロリンよりカルボキシラジカルが発生し、ラジカル反応によりカルボニル基が関わる部分に新たな架橋形成が起こる可能性が示された。そして、カルボジイミド処理直後からラジカルが作用して構造の安定化に働く分子間結合は形成されることで、象牙質の強化に寄与するのではないかと考えられた。 以上の結果は、象牙質が口腔に露出する高齢者の根面う蝕や失活歯の歯根破折の防止のためのコラーゲン架橋による歯の強化法の開発に有用な知見である。
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