研究課題/領域番号 |
23659889
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
西村 英紀 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 教授 (80208222)
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研究分担者 |
鈴木 茂樹 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 助教 (30549762)
山下 明子 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 助教 (70511319)
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キーワード | 歯髄 / マクロファージ / 炎症 / 腫瘍壊死因子 / DNAマイクロアレイ / バイオアッセイ / 共培養 |
研究概要 |
前年度までに培養歯髄組織由来不死化細胞(DP-1)の培養上清中にマクロファージからのTNF-a産生を促進する未知の物質が存在する可能性を突き止めた。さらに、不死化されていないprimaryな歯髄細胞も類似の活性のある物質を産生することも確認した。一方、対照として用いた歯肉線維芽細胞の培養上清中に類似の生物活性は確認されなかった。そこで、この歯髄細胞由来腫瘍壊死因子誘導物質をDental Pulp cell-derived TNF-alpha-Inducing Factor (DPTIF)と命名し、その正常解析を試みた。まず、DP-1とDPTIF活性のない歯肉線維芽細胞の発現遺伝子解析比較をDNAマイクロアレイの手法を用いて行った。DP-1は不死化細胞であることから、求める遺伝子以外にも多くの遺伝子発現が誘導されていることを鑑み、続いてDPTIF活性のあるprimary歯髄細胞と活性のない歯肉線維芽細胞における発現遺伝子の比較を、同様にDNAマイクロアレイの手法を用いて行った。この2系統のマイクロアレイ解析から共通して歯髄細胞系の細胞で発言が亢進している遺伝子について注目した。多くはinterferonによって誘導されると考えられる関連遺伝子群、あるいはその他のpro-inflammatory cytokine、ケモカインであった。一部の遺伝子群については組み換え蛋白を入手し、DPTIF活性があるか否かについて分化THP-1細胞を用い、グラム陰性菌内毒素(LPS)をコントロールとしてバイオアッセイを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請はマクロファージと共培養した歯髄細胞で発現するユニークな分子を網羅的に解析し、その正常を明らかにしようとするものである。前項に記載したように、マクロファージと共培養した歯髄細胞はマクロファージを活性化し、腫瘍壊死因子を産生させる分子を培養液中に分泌することを明らかにした。歯髄細胞と歯肉線維芽細胞で発現する遺伝子を比較することを目的に、DNAマイクロアレイ解析を行い、歯髄細胞で強く発現している分子については組み換え体を入手し、マクロファージからのTNF-a産生性を検討している。これまで歯髄細胞で強発現していたサイトカイン、ケモカインについて検討を行った。その結果、現状でTNF産生誘導能が観察された分子はインターロイキン-1のみであった。しかしながら、本遺伝子は遺伝子発現レベルでは歯髄細胞での発現が確認されたものの、蛋白レベルでの分泌は確認されなかった。すなわち、歯髄細胞が産生し、マクロファージからのTNF-a産生を促進する物質はインターロイキン-1以外の分子であることを明らかにした。不死化およびprimaryな歯髄細胞で強く発現している遺伝子群についてはすでにリストアップしているため、今後は他の分子について検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前項に記載の通りprimaryならびに不死化歯髄細胞で歯肉線維芽細胞に比べ強発現している遺伝子群のリストアップは完結しており、今後はそれら分子群の性状を解析する予定にしている。リアルタイムPCRによる発現遺伝子の検証、蛋白レベルでの翻訳の確認、ならびに組み換え蛋白を用いた培養マクロファージからのTNF-a産生誘導を行う予定にしている。歯髄組織はいったん炎症が惹起されると非常に激しい炎症反応が局所的に観察され、多くの場合炎症歯髄組織は数日内に壊死に至る。浸潤マクロファージを強力に活性化し、TNF-a産生を促進する本物質の本態が明らかになれば、本分子を標的とした歯髄炎症を制御し得る治療法の開発に繋がる。これまでのin vitroの検討から、本分子の作用はグラム陰性菌由来内毒素(lipopolysaccharide: LPS)と同等あるいはそれ以上であることも明らかになっており、本分子の性状解析は慢性関節リウマチなどの他の難治性疾患の成因解明の一助となる可能性もある。
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次年度の研究費の使用計画 |
DNAマイクロアレイで確認された歯髄細胞で強発現してしている遺伝子の発現確認のためのPCR用プライマーおよび試薬、組み換え蛋白の入手、培養上清中の本蛋白の産生確認のためのELISAアッセイ、ならびにマクロファージからのTNF-a産生を検討するためのバイオアッセイに次年度研究費を充てる予定にしている。
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