研究課題/領域番号 |
23659891
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉嶺 嘉人 九州大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (80183705)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | Er:YAGレーザー / 抜髄法 / スミヤー層 / 蒸散作用 |
研究概要 |
本研究では, 赤外線領域パルスレーザーの1つであるEr:YAGレーザーを用いた抜髄法の開発を目的としている。抜髄法は, 歯内療法の中でも根幹をなす手技であり, その治療成績の良否は歯を長期に渡って機能させる上で重要な要素である。抜髄法としては, 古くからリーマー・ファイルなどの器具を用いた方法が確立されており, 今日最も一般的な方法として臨床において頻用されているが, 各種サイズの器具を順次取り替えて使用するなどの煩雑な操作を必要としている。これに対して, Er:YAGレーザーは軟・硬両組織に対する蒸散作用があり, 従来法とは全く異なるメカニズムに基づく歯髄除去療法(レーザー抜髄法)の可能性を有している。すなわち, レーザー法では単一のファイバーチップを根尖部に固定した状態で照射し, 次第に歯冠方向へ移動させるだけの簡単な処置で済む斬新さを備えている。このことは治療に必要な時間の大幅な短縮につながり, 患者と術者の双方にとってメリットが大きい。 本年度は, ヒト抜去歯を用いてレーザー抜髄時の根尖部(アピカルシート)の形態変化に関する走査型電子顕微鏡を用いた観察とレーザー照射時の歯根外表面の温度変化の観察を行った その結果, 蒸散された部位は粗造で凹凸不整な形態を示し, 根尖側との間には明瞭な境界が認められた。また, 照射された根管壁にスミヤー層は形成されないことが確認できた。また,歯根外表面の温度は, 照射時間の経過とともに上昇するものの一定の許容範囲に留まることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 始めにヒト抜去歯を用いてレーザー抜髄時の根尖部(アピカルシート)の形態変化に関する走査型電子顕微鏡を用いた観察を行った。ヒト抜去歯に髄腔開拡を行い, #10のKファイルを用いて目視によって作業長を決定した。根管の太さを考慮して各種サイズのチップを用いたレーザー照射を行うこととした。この際, 根尖部に残存する歯髄組織を最小にするために, 作業長から1mmアンダーの位置で, 10秒間の連続照射を行った。次に, 通法に従って脱水, 金蒸着などの処理を行い走査型電子顕微鏡による観察を行った。 その結果, 蒸散された部位は粗造で凹凸不整な形態を示し, 根尖側との間には明瞭な境界が認められた。また, 照射された根管壁にスミヤー層は形成されないことが確認できた。今後更に, マイクロCTを用いてアピカルシート部での削除量を計測する必要があると考えられる。 次に, 静止状態でのレーザー照射時の温度変化を赤外線サーモグラフィを用いて計測した。歯根外表面の温度は, 照射時間の経過とともに上昇するものの一定の許容範囲に留まることが分かった。Nd:YAGレーザー, 半導体レーザーなどの組織透過型レーザーと異なり, Er:YAGレーザーでは照射エネルギーのほとんどが表面で吸収され深部に影響しにくいことが知られている。今回は残髄を防ぐためレーザーチップを根尖部に静止した状態で連続照射する必要があり, 歯根膜組織や骨組織への熱の影響を考慮するために, 赤外線サーモグラフィで観察した。 結論として, 現在までの本研究の成果より, 根管壁にスミヤー層が形成されないことと根の外側の温度上昇は許容範囲内であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては, 基礎研究の追加として,「根管充填後の根尖部封鎖性」に関する評価を行う予定である。 次に, 臨床段階での研究として,「臨床例での組織形態学的観察」を行う予定である。具体的には, 矯正治療や歯周病罹患歯を対象に, 同意を得た上でレーザー抜髄法の臨床応用を行う。抜髄後に仮封を施した症例または根管充填を行った症例を経時的に診査する。予後診査後の歯を一定の期間後に抜歯し, 通法に従って, 固定, 超音波脱灰装置(申請備品)を用いた脱灰操作を施し,パラフィンに包埋する。その後に, 試料を薄切し, 染色を施して光学顕微鏡で観察する。この際, 特に根尖部の根管充填材と接する残存歯髄の界面を重点的に検索し, 炎症の有無, 治癒の状態を調べる予定である。 以上の研究成果に基づいて, エビデンスに立脚した「レーザー抜髄法の操作手順の検討」を行い, 最終的なレーザー抜髄法の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では, 消耗品費として引き続き研究を遂行する上で必要な試薬類, ガラス・プラスティック器具類, レーザー用チップなどを購入する予定である。また, レンタルで用いる計測器機類の使用料が必要である。 旅費は, 国内での関連学会(日本歯科保存学会(6月, 11月に開催予定), 日本歯内療法学会(6月に開催予定), 日本レーザー歯学会(12月に開催予定)など)に参加しての情報収集ならびに研究成果発表を行う予定である。 その他の経費として, 国内雑誌並びに海外雑誌などへの論文投稿および校正の際に必要な諸費用に使用する予定である。
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