補綴領域における治療は、歯槽骨・顎骨の状態によってその成否が大きく影響される。そのため、補綴前処置としての骨の修正や増生は大変身近なものとなって来ており、より患者の負担が少ない方法が多方面より模索されてきている。しかし、年齢、性別、局所の状態や必要とする骨の量や形態、質などは異なってしかるべきにもかかわらず、これらの要素を念頭に置いた研究は少ない。本研究では、テーラーメイド医療の概念をこの領域に導入し、どのような骨へのアプローチが必要かについて模索するのを目的とした。 まず、臨床における骨再生を要する状況のモデル化することを目指した。臨床において骨再生が必要とされる状況は多数あるが、それらは常に同一の環境ではなく、種々の部位特性を有していると考えられるので、それらのモデルをラットにおいて作成した。実際には、1. 高齢ラットの骨、2. 頭蓋骨、3. 頭蓋骨に形成したクリティカルサイズディフェクトを、実際の患者に対するインプラント埋入予定部位モデルとした。その結果、1-3は臨床における骨状態に対する組織学的類似性を有していることが示唆された。次に、各モデルにおいて必要な要素の適用による骨形成実験に着手した。具体的には、分化度合いが低い状態の未分化間葉細胞にBMP-2あるいはスタチンを投与することにより分化を促進させることができた。次に、それぞれの状況において網羅的解析手法を用いて、骨形成/吸収に関わる遺伝子の発現、あるいはターゲットとした因子の発現(例えば増殖因子を投与した場合、増殖に係わる遺伝子が生体内・局所で実際に促進されているか)を検討することとし、骨形成過程におけるシグナリングパスウエイの解析を行ったところ、Smadシグナリングパスウエイの働きが骨形成に関与しているというこれまでの報告を裏付けるデータが得られた。
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