研究課題/領域番号 |
23659907
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
久保木 芳徳 北海道大学, ー, 名誉教授 (00014001)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 3次元培養法 / 重力 / 反重力装置 / 動力学刺激 / アクチン / 骨原細胞 / 抗がん剤開発 / 3次元マトリックス |
研究概要 |
【研究の目的】細胞培養法は、従来の平板法に加え生体により近い「3次元培養法」へと進んでいる(Nature 424: 870-872, 2003)。我々は各種の3次元培養法を試みてきたが、この方法は3次元マトリックス(ECM)の体積が増すほど循環が不足するので、同時に動力学的要素の考慮が必要である。一方、細胞が受ける普遍的な力学的刺激である重力の効果は殆ど言及されていない。宇宙空間での無重力下の研究や、微小重力装置による研究などがあるが、最も単純に重力効果を知る方法、すなわち細胞接着平面を反転し、細胞側から重力を作用させる方法(反重力法)に関しては研究が進んでいない。我々はその原因は利用可能な装置が得がたいためと考えだれもが利用できる「久保木式反重力装置」を製作した。【装置の特徴】本装置内によれば市販35 mmディッシュに播種・定着した細胞をディシュごと導入し、通常の正重力方向とそれを反転した反重力方向とで、形態学的、生化学的に比較分析できる。本装置は回転による還流効果を与え得るので、あらゆる種類の3次元ECMに適用できる。該当年度では、骨原細胞MC-3T3 E1およびがん細胞MG63を播種しディッシュの半数の反重力下、半数を正位置にて培養し比較した。【成果とその重要性】細胞数は、反重力下では正重力下よりも増大の傾向を示した。興味深いことには、反重力下では細胞群が立体的に列をなして増殖し「うねり」を形成し、そのうねりが特徴的なリングを形成した。アクチン染色によるアクチン線維は、うねりとリングに沿って方向性をもって発達した。正重力下では、以上のような傾向は微弱であり均一に増殖するのみであった。今後、反重力効果を通して重力作用の本質を探ると同時に、本装置による反重力・動力学負荷の応用の一つは、抗がん剤等の開発において生体により近い条件で新薬の効果を測定できる点であろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反重力の効果を、骨原細胞MC3T3 E1細胞において、まず形態的に認めることができた。すなわち天井位置にある細胞(以下天井細胞と呼ぶ)は、列をなして盛り上がって増殖し、堤防状の構造を作った。その堤防状構造物は、「うねり」を形成するほか、円形になって、池の周囲の土手状の構造をしばしば形成した。一方、通常位置の床のある細胞(以下床細胞と呼ぶ)では、こうした堤防(bank)と、池(pond)の形成は、細胞が高密度に増殖した場合に、若干観察されるが、天井細胞では、より顕著であることを見出した。ガン細胞では、いっそう顕著にあらわれた。これは、がん細胞が正常細胞よりも、接着能に劣ることに由来すると推定される。RNAのリアルタイム測定の結果、細胞骨格の主要タンパクであるアクチンが、天井細胞では、床細胞の2倍に増大したことは、天井からはがれまいとして、天井細胞の細胞骨格がより活発に作動することを示している。以上によって、天井細胞が、予想されるように床細胞よりも力学的ストレスを受け、それに対抗している傾向を、世界で初めて示すことができた。 さらに、顕著な発見は、反重力装置を回転した場合に見出された。すなわち、回転モードを、一方方向の回転から、90度交互回転に変えたところ、骨原細胞MC3T3 E1の増殖が、2倍に増大した。交互回転効果の発見は、明瞭であり実用性がきわめて高いと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
反重力装置による動力学の効果は、細胞の種類によって異なることが、十分予想される。これまでは、骨原細胞MC3T3 E1とがん細胞だけであったが、今後、ES細胞、iPS細胞、血管内皮細胞、歯根膜細胞、軟骨細胞ならびに線維芽細胞を、プラスチック・ディシュのみでなく、これまで我々が開発した次の3種類の3次元細胞基盤の上で培養して反重力効果を明らかにする。1.チタン微細繊維ディスク2.ランダムトンネル型βTCPディスク3.チャンバー型βTCPディスク
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度の未使用額109,491円は,予定していた研究器材が、一部値下がりし、当初予定していた額を下回ることになったためである。この分は24年度の物品費および人件費にあてる予定である。
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