研究課題/領域番号 |
23659907
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
久保木 芳徳 北海道大学, -, 名誉教授 (00014001)
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キーワード | 3次元培養法 / 重力 / 反重力装置 / 動力学刺激 / アクチン / 骨原細胞 / 抗がん剤開発 / 3次元マトリックス |
研究概要 |
【目的】現在、細胞培養法はより生体に近い3次元培養が求められているが、3次元細胞支持体は体積が増すほど培地の循環が不足する。そこで動力学的要素の付加が必要になり、我々は力学的刺激として重力の効果を選び最も単純な重力の応用法すなわち細胞接着平面を180度反転し細胞側から重力を作用させる装置(反重力装置と呼ぶ)を開発した。本研究は各種の細胞を用いての反重力装置の性能の実証を目的とする。 【実験方法】反重力装置とは、細胞を市販培養皿に播種定着後本装置内に導入し、通常の重力方向とそれを反転した反重力方向とに配置して培養できる装置である。本装置には回転能力を与えてあり培地の還流は十分でため、細胞皿以外にもあらゆる3次元細胞支持体に対応できる。本年度は前年度に続き、骨原細胞MC-3T3 E1と、がん細胞MG63を通常の培養皿を用いて、正重力と反重力下で比較すると共に、3次元細胞支持体として、チタンウエブ(線径50ミクロンのチタン微細線維から成る立体的な不織布、以下TWと略す)を本装置に導入して1/4反復回転させ、静置状態と比較した。 【予想外の発見とその重要性】反重力培養した細胞の特徴は、RNAレベルアクチン量が20倍以上に増加し、細胞群が立体的に列をなして増殖し「堤防」と特徴的な「池」を形成すること、線維も方向が堤防と池に沿って発達する現象である。正重力下では、以上のような傾向は微弱である。一方、TW内の骨芽細胞は、1/4反復回転重力下では、コラーゲン産生量が静止状態に比べて3倍以上に上昇した。この機構を追求するため、TWと蛋白との反応を分析した結果、リン酸を含む蛋白一般がチタンと結合するという極めて重要な現象を発見した。とくに骨の特徴的成分であるリン蛋白がチタンに結合し、しかも骨リン蛋白をコートしたTWをラット頭骸骨に埋植すると、非コート対照よりも遥かに高い骨量を形成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3次元支持体TWでの反重力培養に関し顕著な予想以上の成果を得た。MC3T3細胞を培養皿を用いず3次元細胞支持体であるTW内に播種し、チタンメッシュ製の保持装置に挟んで1/4(90度)交互連続回転をかけた結果、非回転の対照に比較して細胞増殖の増大のみならず、コラーゲン産生が3.2倍に増大した。この機構を追求すべくTWと蛋白との反応を分析した結果、リン酸を含む蛋白一般がチタンと結合するという画期的な現象を発見した。骨の特徴的成分であるリン蛋白もチタンに結合するので、骨リン蛋白をコートしたTWをラット頭骸骨に埋植すると、非コート対照よりも遥かに高い骨量を形成した。この発見の重要性に鑑み、TWとリン蛋白複合体の反重力効果を、期間延長して研究続行するにした。 培養皿に静止状態での反重力効果は、まず形態的に認めることができた。すなわち骨原細胞MC3T3 E1細胞において、天井位置にある反重力下の細胞群(以下、天井細胞)は、列をなして盛り上がって増殖し、「堤防(bank)」を作り、その堤防状構造物が「うねり」を形成するほか、円を作り「池」の土手状の構造を形成する傾向を示した。ガン細胞MG63では「堤防」と「池」がいっそう顕著にあらわれた。これは、がん細胞が正常細胞よりも、接着能に劣ることに由来すると推定される。E1細胞のRNAのリアルタイム測定の結果、細胞骨格であるアクチンが、天井細胞では、床細胞の20倍に増大したことは、反重力下においては、天井から脱落に抵抗して、アクチン線維の細胞骨格がより活発に作動するためと推定される。 また、MC3T3 E1細胞培養皿の天地回転を続けた際、興味深い点は、天地を一方向に連続回転した場合と、1/4(90度)交互連続回転した場合とを比較したところ、後者の増殖が、2倍に増大したことである。交互回転効果の発見は明瞭であり実用性がきわめて高いと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
骨原細胞MC3T3 E1とがん細胞MG63以外に、 ES細胞、iPS細胞、血管内皮細胞、歯根膜細胞、軟骨細胞ならびに線維芽細胞などを用い、細胞皿での反重力効果と同時に、これまで我々が開発した次の3種類の3次元細胞基盤、とくにTWの上で培養して反重力効果を明らかにする。1.チタンウエブ・ディスク(TW)、2.ランダムトンネル型βTCP・ディスク(RT-βTCP)、3.チャンバー型βTCP・ディスク(Chamber-βTCP)、このうち、チタンウエブ・ディスク(TW)での反重力培養では、骨から分離したチタン結合性蛋白をTWにコートした複合体を用いて、反重力効果を検討する。この問題の追及は、現在世界中で臨床に用いられているチタン製インプラントの骨内定着の効率化という点で、きわめて重要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
(24年度未使用額の発生理由) リン蛋白とチタンの結合性という予想以上の発見に至ったので、この発見を24年度課題にとりれて、より充実した成果として纏めるため、期間延長を申請し認められた。そこで、培養実験の一部を、25年度に行うことにした。そのため培養実験の費用の一部が未使用額となった。
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