前年度の実施状況報告書に記載したように、PPARγアゴニストに対する細胞反応のばらつきが非常に大きく、一定の傾向ですら把握できない状況だったので、最終年度においては、3次元培養による組織学的観察に主眼点を変えて実験を遂行した。方法そのものもPPARγアゴニストを用いる薬学的な環境因子の改変から、物理的な環境因子である酸素濃度を変えての培養系で最終年度は実験を遂行した。当初の申請書に記載した内容から逸脱した方法になるが、最終的なエイジレスな培養口腔粘膜作成と言う到達目標は同一であり、許容範囲の改変と考えた。本方法によると2%の低酸素環境で培養した細胞は20%の酸素濃度で培養した細胞に比べ、代謝はおちるが、増殖能力は増加していた。これは細胞周期の解析から細胞周期がゆっくりではあるが20%酸素濃度下の培養細胞より回転しているためと考えられた。さらに、コロニー形成能も低酸素環境で培養した細胞では、20%酸素濃度培養より亢進していた。また、老化マーカーの発現が低酸素培養では低下していた。組織学的には通常のヒト臨床応用で用いている培養口腔粘膜作成プロトコールでは、2%低酸素で2日間培養した粘膜上皮の厚さが20%酸素濃度で培養したものに比べて増加していた。さらに、引き続き5週間培養した場合の上皮についても生細胞層が多く残存しており、上皮の細胞活性が2%低酸素培養のおかげで高まり、長期生存能に結びついている可能性が示唆された。以上から酸素濃度を改変することが、培養口腔粘膜の長期生存に寄与する可能性が示唆された。
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