研究課題/領域番号 |
23659941
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
川尻 秀一 金沢大学, 医学系, 教授 (30291371)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 口腔扁平上皮癌 / 浸潤 / 転移 / 増殖 / 血管 / リンパ管 / 間質 / 線維芽細胞 |
研究概要 |
23年度は特に口腔癌の浸潤過程における腫瘍間質および血管・リンパ管新生について検討した。すなわち、以前の報告において最も高浸潤・高転移性を示したOSC-19細胞を用いてヌードマウスの口腔内に移植し、移植後経時的にマウスを採取して、その間質および血管・リンパ管像を観察した。通常の病理組織切片での腫瘍間質および血管・リンパ管像の観察以外に、血管とリンパ管をそれぞれ染め分けることが可能な、血管内皮細胞に特異的なCD34抗体、リンパ管に特異的なD2-40抗体を用いた免疫染色法による観察を行った。その結果、浸潤像と血管の密度やリンパ管の密度は直接的には関連が認められなかったが、腫瘍の増殖能との関連は認められた。また、間質中の線維芽細胞の性質の変化についても検討した。 その結果、浸潤が高度になるにつれて、腫瘍細胞の変化のみならず、間質の線維芽細胞にも、MMP-2の発現、FGF-2の発現、α-SMAの発現が上昇した。したがって口腔扁平上皮癌細胞は浸潤時には、間質組織のサポートも得て、浸潤していくことが判明した。さらに、この浸潤をサポートしていると思われる線維芽細胞は、MMP-2、FGF-2、α-SMAを発現する、CAF (Cancer associated fibroblast)の性格を有していことが明らかとなった。また、結合組織量を観察するためアザン染色を行ったが、特に浸潤様式4D型の高浸潤癌においては結合組織量も増え、癌細胞と結合組織量がリンクしながら相互の浸潤をサポートしていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は口腔扁平上皮癌の浸潤過程における腫瘍間質および血管・リンパ管新生について検討する予定でああった。血管新生やリンパ管新生の経時的な変化とともに腫瘍の浸潤度とその密度の変化を検討することができた。以前の報告では、浸潤と血管新生やリンパ管新生は密接に関係し、血管の多い腫瘍は悪性度も高いと考えられていた。しかしながら、本年度の研究目標であった、浸潤と血管・リンパ管の関係はほぼ明らかになり、血管新生は、浸潤よりも、癌細胞そのものの増殖能と関連することが判明している。さらに、間質の線維芽細胞の性質に関する検討も、予定通り進み、浸潤と関連する間質と関連しない間質の違いが、明らかとなってきた。また、浸潤をサポートする線維芽細胞が、筋線維芽細胞と類似した性格を有していることが、明らかとなってきている。当初の計画では、血管新生阻害薬と線維芽細胞抑制薬を使用して、浸潤との関連を検索するのは、24年度後半の予定であったが、現在それを行っている。したがって、研究計画は「おおむね予定通り順調に進展している」と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
23年度は予定通り口腔癌の浸潤過程における腫瘍間質および血管・リンパ管新生について検討し、それぞれの浸潤に関する影響を明らかとした。そこで、24年度は浸潤能の異なる他の口腔扁平上皮癌細胞も用い、23年度に得た結果を再確認するとともに、さらに詳細に、異なる観点から検討したいと考えている。すなわち、血管やリンパ管の腫瘍部の密度だけでなく、その性状や面積等、他のファクターと関係や、血管やリンパ管内皮細胞増殖因子やそのレセプターの発現と浸潤や転移との関係を検討する。また、線維芽細胞の浸潤に関する検討では、浸潤のバリアーとして働いている線維芽細胞と、浸潤を促進している線維芽細胞の性質の違いをさらに詳細に検討して行きたい。さらに、上記にもあげているように、血管新生阻害薬と線維芽細胞抑制薬を使用して、間質の性格が変化するのか否か検討する。また、これらの阻害薬で間質に変化をあたえると、浸潤や転移にどのような変化が起きるのか観察する予定としている。さらに、25年度には癌細胞そのものに傷害を与える抗癌剤を使用し、癌細胞の変化による間質の変化を観察する。これらの結果から、口腔癌の治療において、抗癌剤、血管新生阻害薬と線維芽細胞抑制薬の効果を考察し、治療に応用できるこれら薬剤の使用法について、検討して行く予定としている。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、浸潤能の異なる癌細胞を加える予定であり、浸潤能の違いが間質や血管構築に与える影響を観察する。すなわち、以前のモデルに関する報告において浸潤能の最も高度で細胞であったOLC-01細胞を用いて23年度と同様の研究を行い、OSC-19細胞を用いた結果と比較検討する。この結果から、癌細胞の浸潤転移能と間質増生や血管新生との関係についての結論がでると思われる。また、墨汁注入法にて得られた血管構築像を解析する。血管数のみならず、血管の大きさ(面積)や形態による観察も行う予定である。また、血管の新生は腫瘍の増殖と最も関連するという報告もみられるので、増殖細胞核抗原(PCNA)抗体、上皮成長因子(EGF)および血管内皮細胞増殖因子(VEGF)抗体を用いて免疫染色し検討する予定である。すなわち、移植後に血管の新生が観察される前後で間質増生や腫瘍の増殖能に変化があるのであろうか。また、血管新生の旺盛な細胞の増殖能が高くなるのか否かを検討する予定である。また、線維芽細胞の性質の違いについての検討も同様に浸潤能の異なる癌細胞を加える予定であり、筋線維芽細胞の浸潤に与える影響について詳細に検討する。
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