研究課題/領域番号 |
23659941
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
川尻 秀一 金沢大学, 医学系, 教授 (30291371)
|
キーワード | 口腔扁平上皮癌 / 腫瘍間質 / 血管新生 / 浸潤 / 転移 |
研究概要 |
癌細胞が浸潤する際にはその周囲の線維性結合織や血管の増生を伴う。また、口腔扁平上皮癌においては浸潤様式4C型の癌では胞巣周囲に多量の線維性結合織が観察される。しかし、この間質の反応は腫瘍の浸潤にとってどのような意義があるのか不明である。そこで、線維芽細胞増殖抑制剤による口腔扁平上皮癌の浸潤や転移に対する効果を検討した。実験には浸潤様式4C型の口腔扁平上皮癌細胞株OSC-19と線維芽細胞株Swiss-3T3を用いた。線維芽細胞増殖抑制剤はすでに臨床に用いられているトラニラストを使用した。はじめに、各細胞のトラニラストに対する感受性を検討するため、MTT assayを行った。また、癌細胞の浸潤と転移に対する効果を検討するため、ヌードマウスの舌にOSC-19細胞を移植し、トラニラストの腹腔内投与を行い、効果を検討した。MTT assayの結果、3T3細胞はトラニラストの濃度依存的に増殖抑制効果を認めたが、OSC-19細胞はトラニラスト高濃度下においても増殖抑制効果は認められなかった。また、移植腫瘍においては、トラニラスト投与群は非投与群と比較して腫瘍の大きさは小さく、増殖抑制効果が認められた。したがって、本剤投与によって腫瘍全体の線維芽細胞の量は減少した。病理組織学的には癌細胞の壊死などは認められず、浸潤像にも大きな違いは見られなかった。リンパ節転移率はトラニラスト投与群で約50%の転移抑制効果を認めた。また、血管新生阻害剤(アバスチン)を用いた検討も行った。その結果、間質の血管新生を抑制することで、腫瘍の増殖を抑制できことが判明した。すなわち、間質の線維芽細胞や血管新生を抑制することで、腫瘍実質の増殖や転移が抑制されることから、現在はその機序について、検討を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、口腔扁平上皮癌のマウス移植モデルに腫瘍間質の線維芽細胞増殖抑制剤と血管新生阻害剤を応用し、腫瘍実質の増殖、浸潤、転移がどのような変化を示すか実験を行ってきた。その結果は既に得られてきているので、研究はほぼ予定通りに進んでいると思われる。これからは腫瘍間質と実質の詳細な関連と機序の解明を行う予定である。したがって当初の予定はおおむね順調に進展してきているものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
動物実験でこれまで得られた移植腫瘍と間質組織を利用し、そこで発現している様々な分子の変化を調べて行く予定である。すなわち、細胞接着に関連した分子(E-cadiherinやCD44V6など)と各種の間質破壊酵素分子(MT1-MMP, MMP-2, MMP-9など)、血管やリンパ管の誘導因子(VEGF-A, VEGF-C, VEGFRなど)を予定している。また、腫瘍の低酸素状態を検索するため、HIF-1の発現も検討する予定である。これらを詳細に検討し、腫瘍の間質と実質の関係を明らかにしたいと考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
25年度は主にこれまでに採取した組織を、病理検索および生化学的検索することに研究経費を使用したい。上記に示した各種の蛋白分子を免疫染色するための抗体の購入や染色キットの購入等、ほとんどが消耗品の購入に充てられる。24年度に免疫染色用の染色キットの購入予定であったが、25年度に繰越となったので、22680円の繰越金をこれに使用する計画である。また、最終年度にあたるため、これまでの研究結果をまとめて国内学会での発表を行う予定である。その他、当初の研究費の使用計画と変更はない。
|