研究課題/領域番号 |
23659944
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
由良 義明 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (00136277)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 口腔扁平上皮癌 / 中性子 / ホウ素化合物 / 超音波照射 / マイクロバブル |
研究概要 |
ホウ素中性子捕捉療法はホウ化合物をあらかじめ腫瘍に取り込ませ、ホウ素が中性子を捕捉することで飛程距離の短い放射線を発生させ、腫瘍細胞を選択的に破壊する治療である。ホウ素化合物として、パラボロノフェニルアラニン(BPA)とボロカプテイト(BSH)が使用される。BSHは濃度勾配で細胞内に移行するが、BPAはアミノ酸トランスポーターにより取り込まれる。そのため、静止期癌細胞ではBPA濃度が低下する。そこで、本研究では音響穿孔法(ソノポレーション)によって、細胞膜に一過性の小孔を形成してホウ素化合物を細胞内にとりこませ、BNCTの効果を高めることを目標とした。1.ヒト口腔扁平上皮癌細胞SASの懸濁液にBPAあるいはBSHを50 ppmの濃度で添加して旋回培養を行い、細胞内ホウ素濃度をICP-MSにて測定した。その結果、細胞内のホウ素濃度はBSHでは3 ppmの低いレベルであったが、BPAでは次第に上昇し、2時間で15 ppmとなった。2.ホウ素化合物を含む培養液で2時間培養したのち、マイクロバブル(MB)存在あるいは非存在下に超音波照射(US)を行った。実験群として非処理対照群、MB群、US群、MB+US群を設定した。BPA、BHSのいずれにおいても、MB+US群で、ホウ素濃度はそれぞれ、対照の1.6、3.5倍にまで上昇した。3.培養SAS細胞に対するBNCTでは、非処理対照群、中性子(N)群、MB+US+N群を設定した。MTT assayならびにコロニー形成法を行ったところ、いずれのホウ素化合物でも細胞増殖はMB+US+N群で最も強く抑制された。MTT assay の場合、BPA使用のN群とMB+US+N群との間で有意差を認めた。したがって、ソノポレーションは細胞内のBPAとBSH濃度を上昇させ、BNCTの抗腫瘍効果を増強するものと考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
口腔扁平上皮癌細胞ならびに癌組織内のホウ素濃度測定を誘導結合プラズマ質量測定計(ICP-MS)でppmレベルまで測定できることを確認した。培養癌細胞において、マイクロバブルを用いたソノポレーションを行うとBPAならびにBSHの細胞内への取り込みが向上した。このホウ素濃度が上昇した細胞に、原子炉から発生する熱中性子の照射、すなわちBNCTを行った結果、BNCTの細胞増殖抑制効果は増強することが明らかとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の研究で、培養ヒト口腔扁平上皮癌細胞に対するソノポレーションの効果が明らかとなったので、今後はヌードマウス腫瘍に対するソノポレーションを併用したBNCTの効果を検討する。さらに、腫瘍組織におけるソノポレーションの影響、BNCTの効果、アミノ酸トランスポーターの発現について、組織レベルで明らかにし、現在実施されているBNCTの臨床成績の向上に繋げたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、ヌードマウス皮下に形成したヒト口腔扁平上皮癌組織を主な対象として、ソンポレーションを併用したBNCTの効果について検討する。1. 静止期の細胞にいかにしてホウ素化合物を導入するかが重要である。そこで、静止期細胞を再現するため、血清濃度の低下や抗腫瘍薬5FUの添加で増殖能を低下させた口腔扁平上皮癌SAS細胞の系を作成し、ソノポレーションによる細胞内ホウ素濃度の上昇を調べる。2. SAS細胞を4週齢雌Balb/cヌードマウスの後足大腿部の皮下に接種して腫瘍を形成する。腫瘍径が5 mmになったのち、腹腔内にBPAでは250 mg/kg, BSHでは75 mg/kgを投与し、腫瘍内ホウ素濃度が上昇する2時間後にマイクロバブルを腫瘍内に投与し、トランスデュサーを腫瘍に密着させて超音波照射を行う。超音波照射条件は1 MH、出力1 W、duty cycle 20%で、時間は30秒、1分、2分と変化させる。直ちに腫瘍を採取し、組織中のホウ素濃度をICP-MSを用いて測定する。3. BNCTの抗腫瘍効果をみるため、超音波照射後に1 MWで運転中の京都大学原子炉から発生する熱中性子を照射する。腫瘍組織ホウ素濃度と熱中性子フルエンスから放射線物理線量を算定する。BPAあるいはBSHを腹腔内投与し、腫瘍へのソノポレーション後に熱中性子照射を行い、経時的に腫瘍径を測定して腫瘍体積を求める。4. BNCTによる腫瘍の組織変化につき、熱中性子照射後、経時的に腫瘍を採取し、HE染色標本を作成して組織像を観察する。BPAの取り込みはアミノ酸トランスポーターを介するため、抗LAP1抗体を用いた免疫組織化学染色でその発現を調べる。
|