ホウ素中性子捕捉療法はあらかじめ腫瘍に取り込ませたホウ素が中性子を捕捉することで飛程距離の短い放射線を発生させ、腫瘍細胞を選択的に破壊する治療である。臨床では、ホウ素化合物としてパラボロノフェニルアラニン(BPA)とボロカプテイト(BSH)が使用される。本研究は低出力超音波を用いたソノポレーションによって、細胞膜に一過性の小孔を形成してホウ素化合物を取り込こませ、BNCTの効果を高めることを目標としたもので、初年度は培養ヒト口腔扁平上皮癌細胞SASでホウ素化合物の細胞内への取り込みがソノポレーションで向上することを明らかにした。本年はヌードマウスの口腔癌モデルを用いて、腫瘍内ホウ素濃度の測定を行った。SAS細胞の担癌ヌードマウスの腹腔内にホウ素化合物を投与し、2時間後に腫瘍にマイクロバブル存在下の超音波照射(S)を行って、腫瘍内ホウ素濃度を測定したところ、BPA、BSHのいずれの場合もソノポレーションによって上昇がみられた。次にBPAあるいはBSH投与後にソノポレーション、中性子照射を行う実験を行った。これらを組み合わせた実験群は、中性子単独(N)、BPA+N、BPA+S+N、BSH+N、BSH+S+Nであり、各実験群におけるヌードマウス腫瘍の物理線量は、それぞれ4.59、 8.15、8.98、4.96、5.76 Gyであった。抗腫瘍効果に関して、BPA+N群ではN群と比較して腫瘍増加は抑制されたが、腫瘍の退縮には至らなかった。しかしながら、ソノポレーションを併用したBPA+S+N群では、腫瘍は顕著に縮小した。BSH+S+N群では明らかな効果は見られなかった。生存率において、BPA+S+N群で延長がみられ、他の実験群との間で有意差を認めた。したがって、ソノポレーションは腫瘍内のBPA濃度を上昇させ、BNCTの抗腫瘍効果を増強するものと考えられた。
|