本研究では口腔癌患者由来の体液中に存在する分泌型 miRNA のプロファイルを明らかにした上で、それら miRNA が含まれているとされるエクソソームのヒト正常口腔粘膜上皮細胞および口腔癌細胞の増殖能に及ぼす影響を検討した。癌の既往のない健常者および口腔癌患者より同意を得た上で血清および唾液を採取し、分泌型 miRNA を抽出した。それぞれの検体より抽出された分泌型 miRNA を用いてマイクロアレイによる網羅的発現解析を行い、健常者と比較して口腔癌患者で変動する分泌型 miRNA の同定を試みた。口腔癌患者血清 (10 検体) と非担癌健常者血清 (10 検体) の miRNA マイクロアレイ解析により、口腔癌患者血清に共通して存在量が増加する miRNA を 17 種類、存在が検出できなくなる miRNA を 15 種類同定した。その中でも、hsa-miR-181b は口腔癌患者血清のみならず唾液においても特異的にその存在量が著明に増加していた。hsa-miR-181b は白板症から口腔癌への進行に関与していることが報告されていることから唾液中の miRNA が白板症から口腔癌への進行を促す可能性を示唆した。 次に、同一口腔癌患者由来の正常口腔粘膜上皮初代培養細胞と口腔癌初代培養細胞それぞれの培養上清よりエクソソームを抽出し、正常細胞由来のエクソソームで口腔癌細胞を、癌細胞由来のエクソソームで正常細胞を 72 時間処理したところ、それぞれのエクソソームは各細胞の増殖に全く影響を及ぼさなかった。エクソソームの精製度や濃度など処理条件の詳細な検討が必要であることが示唆された。
|