本研究の目的は,う蝕予防のためのワクチンを作成する試みとして,一般的に行われている抗原の投与による能動的な免疫誘導ではなく,抗体を投与することによる受動的免疫を手段として想定している.さらに投与する抗体は,一般に用いられる羊,馬,やウサギ,ラットといった動物由来ではなく,より安全性の高い食物として用いられているイネにヒト型抗体を産生させることを最終目的とした. 前年度にターゲットとするグルコシルトランスフェラーゼ遺伝子(gtf)の解析を行い,この遺伝子が,口腔由来のレンサ球菌に特異的に局在して存在していること,進化論的にStreptococcus mutansのgtf遺伝子の由来が,乳酸菌に存在するよく似たグルコシルトランスフェラーゼの遺伝子にあることをあきらかにした.このことは,う蝕の予防のためには,S.mutansだけでなく,古くからう蝕原因菌の1つと言われてきた乳酸菌についても,再評価する必要性を示唆することとなった.そこで今年度では,小児の口腔内の乳酸菌のレベルの再評価をおこなった. またクローニングしたgtf遺伝子を植物に組み込む手法の確立を目指したものの,十分な結果を得ることができなかった.
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