研究課題
加齢に伴う骨髄の組織変化として、造血幹細胞や前駆細胞が減少し、脂肪組織に置換することが知られている。間葉系幹細胞は骨芽細胞あるいは脂肪細胞に分化するため、脂肪髄となる環境では、骨芽細胞への分化が阻害され、骨量が減少すると考えられる。しかし、加齢による造血細胞の減少と骨代謝回転が低下を結びつける機構、すなわち加齢による骨髄環境の変化が骨量を減少させる分子基盤は明らかでない。加齢に伴う骨髄環境の変化つまり造血系細胞の減少が間葉系幹細胞を脂肪細胞へ分化させ、骨芽細胞前駆細胞を減少させる。その結果、骨代謝回転が遅くなるという斬新な仮説を本申請課題では明らかにする。また、造血系前駆細胞に発現するWntが、間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化を抑制し、骨芽細胞への分化を促進する可能性を分子レベルで明らかにする。我々は、関節炎モデルマウスを解析する過程で以下の点を明らかにした。関節炎モデルマウスの骨髄は、対照マウスと比べて脂肪組織が顕著に減少した。関節モデルマウスのWntの発現を解析したところ、Wnt5aの発現が増加した。また、Wnt阻害分子であるDKK1およびSfrp4が増加し、Sfrp5は顕著に減少した。Sfrp5はWnt5aの活性を阻害することが知られている。そこで、骨芽細胞と骨髄細胞の共存培養にIL-17を添加し、破骨細胞形成を誘導した。Sfrp5は、IL-17による破骨細胞形成を抑制した。骨芽細胞から分泌されるWnt5aが破骨細胞形成を亢進することから、脂肪細胞より分泌されるSfrp5はWnt5aを抑制し、破骨細胞分化を抑制する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、マウスに増殖細胞を死滅させる5-Fuを投与し、骨髄の脂肪化を誘導した状態における骨リモデリングを解析する予定であった。しかし、我々は、関節炎の発症に伴い、脂肪髄が著しく減少することを見出した。このため、関節炎モデルマウスの解析を優先し行った。関節炎モデルマウスにおけるWntおよびWnt阻害タンパク質の発現をリアルタイムPCRを用いて検討した。関節炎では、Wnt5aが高発現することを見出した。また、今までに報告されているDKK1の発現亢進に加え、今回の実験で、Sfrp5が減少することが明らかになった。脂肪細胞から分泌されるSfrp5は、Wnt5aの阻害分子として働くことから、Sfrp5が脂肪髄における骨リモデリングの低下に重要な役割を果たす可能性が示唆された。今後、血液細胞がSfrp5の分泌をどのように調節するかを明らかにする必要があると思われる。
5-FU投与による低骨代謝回転マウスの解析:(1)8週齢マウスに5-FUを静脈内投与する。マイクロCTで大腿骨の骨量を解析、骨形態計測を行う。骨髄組織の脂肪量を組織学的に解析する。(2)5-FUは増殖している細胞に細胞死を誘導する。骨芽細胞に対する5-FUの直接作用を明らかにするため、骨芽細胞の増殖に及ぼす5-FUの影響を組織学的に解析する。(3)5-FU投与マウスの脛骨における骨芽細胞、脂肪細胞、B細胞および破骨細胞マーカーの遺伝子発現をリアルタイムPCR法で解析する。(4) (3)の遺伝子発現解析に加え、5-FU投与したマウス脛骨におけるWntおよびWnt阻害分子の発現を解析する。
5-FU投与により骨吸収および骨形成が低下するかをWntの発現変化と関連づけながら解析を進める。これにより、骨髄を脂肪化したときの骨代謝回転の変化と関節炎モデルのように脂肪細胞が減少した環境の両面から解析ができると考える。
すべて 2012
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