本研究の目的はかゆみがどのような要因によって影響を受けるのか明らかにし、かゆみを軽減するケアの科学的根拠を明らかにすることである。 かゆみは感覚神経の中でも無髄性C線維によって中枢神経系に伝えられることから、無髄性C線維を特異的に興奮させるニューロメーターを使用して、5Hzで刺激を行った際の電流知覚閾値(CPT)を指標に、刺激部位を温めるあるいは冷却した際にCPTがどのように変化するか検討を行った。健康な成人女性4名を対象に前腕部を5Hzで刺激を行った場合、冷却前に15.0±10.39(×10μA)(mean±sd)であったCPTは冷却すると10.3±8.08と減少した。逆に暖めるとCPT4.0±2.65から10.3±8.08に上昇した。このことは、皮膚を冷却すると閾値が下がる、つまり敏感になることを示している。逆に温めると閾値が上がり、このことは刺激に対して感覚が鈍くなっていることを示している。かゆみの感覚は5Hzで興奮する無髄性C線維によって伝えられることからこのCPTを指標にしたが、C線維は痛みなど他の感覚も伝えることが知られているため、閾値レベルでは感覚の種類までは区別して興奮しているか否か考慮する必要性が考えられた。 また、皮膚が乾燥している場合もかゆみに影響する可能性があることから、11名の女性を対象に温冷覚の痛覚閾値が皮膚の湿潤によって異なるか否かを調べた。無髄性C線維による温覚の痛覚閾値は皮膚水分量が41.0から85.3に増加しても、有意な変化はみられなかった。 本研究結果から皮膚を温めたほうが無髄性C線維の興奮を感じにくくなることが明らかとなった。しかし、無髄性C線維はかゆみだけを引き起こす感覚線維ではないことから刺激方法を検討すること、また、かゆみは主観的な感覚であることから、主観的な評価も加えた検討が必要であると考えられた。
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