看護技術における「熟練の技(わざ) 」や「コツ」はその「暗黙性」ゆえに伝承しにくい.看護の持つ暗黙知や技の伝承に関して研究されたものは少なく,その研究の歴史は浅い.これまでの研究では,主に知識の暗黙性に焦点を当てたものが多く, その方法はインタビューやナラティブなどの質的な研究アプローチがほとんどであり,看護技術の技能の暗黙性についての研究は少ない.著者らは先行研究において,暗黙知を形式知化する方法として看護師と初学者の看護技術実施時の視線の動きに着目し,その違いを明らかに してきた .本研究では, さらに看護技術の暗黙的な特徴データを多様な視点から抽出するため,採血実施時の脳波,心拍数などの生体データに着目し,看護師と初学者の緊張状態の変化の違いなど,その特徴を分析した. その結果,脳波について,初学者と看護師の平均値についてt検定を行った結果,β/α値では有意差は見られず(p=0.54),θ/α値で初学者と看護師に有意差がみられた(p<0.001).また,採血技術実施中,看護師は2名とも常にθ/α値がβ/α値に対して優位であったが,初学者11名のうち3名は常にβ/α値の方がθ/α値より優位となり,2名はβ/α値とθ/α値の優位が実施回数により逆転するものがみられた. 心拍データについては,初学者では,採血技術の成功回数が多い被験者でもCVIとLF/HFの相関は低く,採血技術に対する精神的な安定度が高いとは言い難い.すなわち,採血時の心理状態は,初学者と看護師とでは明らかに異なることがわかった.
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