研究課題/領域番号 |
23660037
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
溝渕 俊二 高知大学, 教育研究部医療学系, 教授 (00209785)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 老人性乾皮症 / 海洋深層水 / β-グルカン / 黒酵母 |
研究概要 |
老人にとって持続する「痒み」はこの上ない苦痛であり、不眠や精神状態などの一因となるためQOLの低下に直結している。また、老人性乾皮症には決定的な治療方法が存在せず、対症療法のみで対処しているのが現状である。高齢者の痒みの原因として最も頻度が高いのは老人性乾皮症である。60歳以上の高齢者の実に9割以上が老人性乾皮症の状態であるが、その根本的治療法は開発されていない。高齢化社会が急速に進んでいる日本ではますます老人性乾皮症患者が増加することは容易に予想される。 この症状は加齢に伴いアンドロゲンの分泌が低下し、その結果皮脂腺の機能低下を引き起こすために起こると考えられている。さらに、老人性乾皮症発生部位の皮膚は掻痒閾値が低下しているため、かゆみを伴うことが多く、掻くことにより容易に湿疹性の変化を起こす。痒いから掻き、その結果さらに痒みが増すといった悪循環に陥り最終的には皮脂欠乏性皮膚炎に移行する。 本研究では黒酵母由来水溶性β-グルカン(β-g)を主成分とした乾皮症対策の塗布剤開発を目的として行っている。水溶性β-1,3-1,6グルカンの経口摂取による効果については、我々も含め国内外の多くのグループが研究を行っている。しかしながら、グルカンを塗布剤として利用する研究はほとんど行われていない点に本研究の特色がある。β-gは保水作用、細胞性免疫の増強、抗酸化作用など老人乾皮症の症状軽減に貢献すると考えられる機能性を複数有している。つまり、一つの物質で老人性乾皮症の多岐にわたる症状に対して効果が期待できる点に大きな特徴がある。本研究の完成は、副作用のない老人性乾皮症に対する抜本的解決策となり、老人が豊かな老後を送るための一助となり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HOS-R1マウスを用いて痒傷モデルマウスを作成し、β-gの抗アレルギー皮膚炎効果を検証した。マウスに7% 2,4,6-Trinitrochlorobenzene (TNCB)溶液30μlを腹部に塗布し感作し、感作1週間後から隔日で頚背部に1% TNCB溶液30μlを塗布し惹起を行った。惹起開始と同時に、β-g(10%、50%)塗布を開始した。100μlのβ-gを惹起後2週間、耳介及び背部に連日塗布した。β-g塗布は惹起後8時間以上の時間を空けて行い、対照群には同量の生理的食塩水を塗布した。 評価は皮膚炎スコアと耳介の肥厚を指標とした。皮膚スコアは紅斑、浮腫・肥厚、出血・掻破痕、乾燥について、無症状(0点)、軽度(1点)、中度(2点)、重度(3点)の評価を行い、12点満点でスコア化した。耳介の肥厚はマイクロメーターを用いて計測した。 皮膚スコアは比較対照群が5.0±1.00点(±S.D.)であったのに対し、10%β-gは3.8±0.45点、50%β-gは2.4±0.55点と濃度依存的に症状を緩和した。対照群に対するt検定の結果、10%β-gはp=0.020、50%β-g p=0.0005と統計的にも有意な差であった。また、耳介の肥厚も皮膚スコアと同傾向で、比較対照群が0.42±0.056 mm(±S.D.)、10%β-g溶液は0.32±0.042 mm、50%β-gは0.27±0.029 mmとやはり濃度依存的に症状を緩和した。対照群に対するt検定の結果、10%β-gはp=0.00017、50%β-g p=0.00000と統計的にも有意な差であった。 以上の通り、痒傷モデルマウスの症状緩和にβ-gが有効であることが実証された。実験計画段階では、β-gの溶媒に海洋深層水を用いる予定であったが、現時点では海洋深層水と生理的食塩水の差は認められていない。
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今後の研究の推進方策 |
現在、痒傷モデルマウスを用いての黒酵母培養液の皮膚塗布による効果について再現性実験を行っている。痒傷モデルマウスから生物試料を採取し、さらなる詳細な解析を行うための準備も併せて行っている。病巣部である耳介を採取し、ホルマリン固定を施し、組織化学的解析を行う。組織切片にH-E染色を施し、炎症部位全体像の解析を行う。加え、トルイジンブルー染色により肥満細胞を、DAB染色により好酸球を選択的に染色し、痒傷性炎症で中心的な役割を果たす白血球の炎症部位での形状・動態を観察・解析する。 痒傷モデルマウスの血清を用いて生化学的解析を計画している。評価項目は、血清総IgE量、痒みの原因物質であり、肥満細胞から放出されるヒスタミン量、病態の動向に関与するサイトカイン量をELISA法で測定する。 併せて、試験管内の系を用い、痒傷性炎症で中心的な役割を果たす好酸球に対するβ-gの効果を解析する計画である。効果は、好酸球系細胞株(Eol-3細胞)を用いて検証する。β-g存在下でEol-3細胞を前培養し、ホルボール12-ミリスタート 13-アセタート(Phorbol 12-myristate 13-acetate, PMA)による刺激を行う。刺激によって産生される炎症の原因物質である活性酸素量をチトクローム還元法を用いて解析する。また、好酸球の細胞内顆粒には、組織を傷害する物質を含有する4種類の塩基性タンパク質を内在している。刺激により、好酸球の脱顆粒が生じ、組織に塩基性タンパク質が放出される。この、脱顆粒量はo-フェニレンジアミン(o-Phenylenediamine)法で解析し、痒傷モデルマウスの症状緩和における好酸球に対する効果を検証する。 得られたデータを基に、β-gによる痒傷モデルマウスの症状緩和気序についての仮説を細胞レベルで構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
試薬(サイトカインELISA等)に対して520,000円、実験用消耗器具実に330,000円、そして実験用動物(HR-1マウス)に対して150,000円を使用予定です。
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