研究概要 |
老人性乾皮症は、高齢者の痒みの原因として最も頻度が高く、老人のQOLの低下の原因となっている。しかし、その根本的治療法は開発されていないため、対症療法で対処しているのが現状である。本研究は、黒酵母由来β-1,3-1,6グルカン(β-グルカン)と海洋深層水(深層水)の特性を利用し、抗老人性乾皮症塗布剤の開発を目的として実施した。 我々は、試験管内の系で、β-グルカンと深層水の混和物が正常繊維芽細胞の増殖に奏効を示すデータを得ている。このデータを背景に、初年度は皮膚炎モデルマウスで効果の検証を行った。HOS-HRマウスにトリニトロクロロベンゼンを塗布し、皮膚炎を発症させた。このマウスに評価物を塗布し、効果は皮膚病態のスコア化と病巣である耳介の厚みを用いて評価した。その結果、β-グルカンの濃度依存的に症状の軽減効果が認められたが、深層水との相乗効果は認められなかった。深層水との併用による相乗効果が認められなかった原因としては、β-グルカンの抗炎症緩和効果が著明であったため、深層水の効果が明確に見出されなかった可能性が考えられる。 2年目は、作用機序の解明に着手した。β-グルカン塗布による抗炎症効果の作用機序の一つとして、好酸球の機能性を阻害する可能性に着眼し、好酸球系細胞株;Eol-1細胞の脱顆粒に及ぼす影響を解析した。好酸球の顆粒内には塩基性タンパク質が内在しており、脱顆粒によってこれらのタンパク質が組織に放出され、組織損傷の一因となることが知られている。よって、β-グルカンによる好酸球の脱顆粒阻害効果が、皮膚炎症状の緩和に寄与していることが示唆された。 本テーマはまだ研究途上ではあるものの、治療方法の確立していない老人性乾皮症の症状低減に寄与する可能性が高いことを示した。今後は、作用機序の解明と共に、ヒトでの検証も実施し、実用化に向けた研究を進めていく計画である。
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