昨年度に引き続き、病気の子どもが自分の未来を切り拓いていくちからを獲得するプロセスを明らかにするために、理論的サンプリングに基づき収集したインタビューデータを質的に分析した。小児期に慢性疾患を発症した高校生から社会人までの14名の研究協力者にそれぞれ1~3回のインタビューを行い、逐語録を作り、彼らの語りから、彼らが病気経験を通して、どのように自分の未来を切り拓くちからを獲得しているのかについて、グラウンデッドセオリーアプローチに基づいて質的に分析した。 分析の結果、生きるために本質的な状況としての慢性的な病気の状況の実感、生きることの重要性についての実感、健康に関する感覚の拡がりに関する自覚、ためらいながらも自ら意思決定するちから、生きるために必要なしなやかさの獲得、パートナーシップの獲得による喪失の克服、身近にあり続ける不確かさへの直面という9カテゴリーが抽出された。子どもは、慢性疾患の発症により、身近にあり続ける不確かさへ直面せざるを得ない状況に陥り、さまざまな喪失を経験するによって、生きることの重要性を実感し、友人や医療者など発病前までの生活とは比べて多種多様な人との間でパートナーシップを獲得することによって喪失を克服し、自分の健康に関する感覚が拡がっていることに気づくようになる。さらに、自らの身体感覚から直感的に病気の重さを理解し、大人が真実を語ってくれない場合には大人への不信感を募られることもあるが、徐々に病気とともにある自分の中の健康の存在に気づくようになると、大人の態度もみとめられるような、生きるためのしなやかさを獲得するようになり、病気を自分の中に本質的に存在するものとして実感し、存在を認められるようになっていた。今後はさらに理論的サンプリングを行い、データの飽和化をめざし、病気の子どもたちが未来を切り拓くちからを獲得していくプロセスに関する理論を生成する。
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