本研究は、保健医療福祉資源の乏しい農村部に生活する女性たちに焦点を当て、女性たちのメンタルヘルスを、女性に内在する個人的資源および女性を取り巻く社会文化的資源との関連から明らかにして、資源の乏しい地域においても実現可能なメンタルヘルス支援の開発とその方法論を確立することを目指している。 平成24年度は、①地域のメンタルヘルスケアニーズのアセスメントツールの検討、②女性に内在する個人的資源および地域に存在する社会文化的資源を生かしたメンタルヘルス支援の検討を目的として、中国内陸部のH市近郊農村部の三村及びインドネシア東部の噴火被災農村の集団移転地三ヶ所において行った。 中国農村部の調査では、子どもにまつわるストレス、経済的ストレス、健康面の不調、地域の凝集性などが、メンタルヘルスに影響していた。また、城鎮化/都市化されつつある農村部では、住み慣れた場所や生業の喪失、就労への不安など、都市化によるメンタルヘルスへの影響が認められた。一方、インドネシアの被災農村の集団移転地では、多重喪失による悲嘆や生活困窮、生業の喪失、地域の凝集性などがメンタルヘルスに影響していた。メンタルヘルスケアニーズのアセスメントにおいては、個人・家族ストレス、地域産業の変化、地域の凝集性などを把握する必要が示唆された。 メンタルヘルス支援の開発においては、①メンタルヘルスケアニーズのアセスメント(Needs)、②個人資源、社会文化的資源の特定(Asset)、③住民との協働による支援内容・方法の検討(Collaboration)、④支援のプロセスと効果の評価(Evaluation)のステップの必要が示唆された。なお、農村女性のストレス反応は、不眠、意欲低下、抑うつ感などの精神症状としてよりも、身体症状として自覚される傾向があるため、メンタルヘルス指標には身体反応を含んだ尺度を用いる必要が示唆された。
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