研究概要 |
本研究の目的は,状況に応じ調整可能な『動きの眼鏡』を開発することで,速度知覚のダイナミックレンジを拡大することである。視覚における明るさ知覚のダイナミックレンジを,調光サングラスにより拡大したかのように,速度知覚のダイナミックレンジを拡大し,運動物体を強調することや,逆に認知負荷を下げる効果が期待できる. 本研究の特色は,1)暗視カメラのように,感覚器に新たな変換器を付加するのではなく,人が本来有する知覚特性を活用し,視覚と観察対象との間のインピーダンス整合を行うことで,2)日常利用可能な,簡便で装着負荷の少ない装置を実現し,3)新たに開発した装置を用い,人間の速度知覚特性に関し新たな知見を得られる可能性がある.という三点を挙げることができる.これらの運動知覚に関わる知見は,例えば車両運転者への環境に応じた速度知覚の拡張フィルタの設計等に応用可能であり,より安全な操作システムの設計において重要なものである. 本年度は,計画書における「Phase1:強誘電性の液晶素子を用いた光学式時間周波数フィルタによる心理物理実験を通して,視覚における速度・運動知覚特性に関して基礎的な知見を得る.」及び「Phase2:対象映像に適応した時空間フィルタ生成のための手法を探索する.」を実施した.特に左右の目にそれぞれ異なる周波数で離散化した視覚情報を提示することで,「動体の輪郭」と「動体の軌跡」の双方を同時に知覚可能にする手法を提案出来た点が大きな進捗であるといえる.本手法の実現によって対象に合わせた時間フィルタの設計の自由度が高くすることに成功したと言える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度提案した,「動体の輪郭および軌跡の双方を同時に知覚可能にする」手法に関して,より詳細な検証を行う.例えば,現在は両眼の視覚刺激制御に用いた液晶素子の制御周波数の違いが,ヒトの運動知覚に及ぼす影響について着目し検証しているが,今後は制御位相の影響についても調査を進める.また,上記提案手法は主に時間フィルタの設計によりヒトの運動知覚の拡大を試みるものであるが,今後は空間フィルタ設計の観点も含め,運動知覚の拡大手法を模索する予定である.例えば,観察対象の色形状,動きに応じて環境内の照明を動的に変化させるなど,照明光学を基にした環境光設計によって運動知覚を拡大させるための手法を模索する.これらを統合して,研究計画の「Phase2:対象映像に適応した時空間フィルタ生成のための手法を探索する.」に関して研究を推進する予定である.
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