研究概要 |
本研究では,従来の歩容認証が対象としてきた周期的に定常な歩行に加えて,歩き始めの加速や歩容動作のふらつきによる位相ゆらぎ等の歩容ゆらぎを含む歩行を解析対象とする.そして,P1)歩容ゆらぎに頑健な歩容認証,P2)歩容ゆらぎの積極的利用による歩容認証の高精度化の2項目に取り組むことで,歩容認証の適用範囲の大幅な拡大を目指す.本年度は,P1の一項目である単一周期画像列からの位相推定に関連する以下の3項目に関する研究を実施した. 1.位相推定手法の定式化と実装 歩容ゆらぎ解析の第一段階として,位相ゆらぎ解析の基礎となる位相推定手法を開発した.研究代表者らが提案した単一周期画像列に対する自己動的時間伸縮に加えて,新たに隠れマルコフモデルや時間伸縮関数に対する線形進行からのバイアス補正項を検討し,最終的にバイアス補正項を加えた大域的最適化を採用した.この定式化により,従来手法が抱えていた位相と元信号の間の曖昧性を解消した. 2.シミュレーションデータによる定量的評価 真値の位相が既知の正弦関数や調和関数の信号に対して,位相ゆらぎを付加したシミュレーションデータを生成し,推定位相の誤差を定量的に評価した.結果として,従来手法と比較して,位相推定の誤差の標準偏差を10分の1に低減し,また,復元された周期信号のPSNRを10から20dB改善することを確認した.3.実データによる定性的評価 OU-ISIR Gait Databaset, Treadmill dataset Dから,位相ゆらぎの大きな被験者100名の歩容画像列を抽出して,位相推定手法を適用した.同一位相と推定された歩容画像を並べて比較することで,各々同じ姿勢になっていることを確認し,提案手法が歩容画像列に対しても有効であることを定性的に確認した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の自己動的時間伸縮に基づく位相推定手法で実データを評価したが,(平成24年1月に)いくつかの失敗例が見られたものの,線形進行からのバイアス補正項を加えた大域的最適化により,精度良く位相推定を行うことができることが判明した.これにより,当該年度に計画していた研究の目的は達成されたため.
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度に開発した位相推定手法を利用して,歩容ゆらぎの積極的利用による歩容認証の高精度化を目指す. 1.ゆらぎ特徴量の抽出位相推定結果に基づいて,位相正規化歩容画像列を作成する.次いで,複数周期間の位相正規化歩容画像列に存在する差分をゆらぎ画像として抽出する. 2.複数歩容特徴による歩容認証 従来の周期単位の歩容特徴と本研究の位相ゆらぎに基づく特徴がそれぞれ抽出されることから,各特徴間の類似度(スコア)を計算し,マルチモーダル認証の分野で用いられている手法と同様にして統合することで,歩容認証の高精度化を目指す.
|