本研究の目的は唾液・体組織液・爪・毛髪などに含まれるホルモン等により、長期にわたる心的ストレスを評価する方法論を開発することにある。人間がストレスに曝されると体内に特定のホルモン・免疫物資等の過剰分泌が生じることが知られている。本研究は、体組織液・爪・毛髪などの検体による、より汎用的なストレスの客観的評価手法を研究する。本研究は研究期間全体を通じて(1)体組織液・爪・毛髪からのバイオマーカー抽出技術の確立、(2)実験研究による各バイオマーカーの有効性・適用可能範囲の評価、(3)フィールド調査研究によるフィージビリティ・スタディ、の各段階により研究を遂行する計画である。 昨年度までに標記実施内容(1)、(2)は達成され、また(3)についても計画通りフィールド調査を完遂した。最終年度にあたる本年度は、(3)のフィールド調査研究の結果を取りまとめるとともに、これまでの総括を行った。主な成果として、5ヶ月間にわたるインターンシップ従事者を対象とした中・長期的なストレス評価研究において、当初想定された通りインターンシップ期間後半において心理的にもまたストレス・ホルモン等の生理的ストレス・マーカーにおいても生理・心理的なストレス指標の悪化(いわばストレスの蓄積)が観察された。しかしながら同時に、その様な生理・心理ストレスの蓄積は、インターンシップ開始“前”における被験者の性格特性またストレス・ホルモンのレベルにより大きく異なることが示された。このことは、近い将来に想定される環境変化に対する、ストレス・ホルモンの変動が、事後的な、実際にストレス負荷がかかる事態における生理・心理的ストレスの蓄積を予測し得るものであることを示唆している。この成果は、いわば“ストレス耐性”の事前評価の可能性を示唆するものであり、非常に興味深い。今後検証を重ねる必要がある。
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