研究課題/領域番号 |
23680030
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
古澤 力 大阪大学, 大学院・情報科学研究科, 准教授 (00372631)
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キーワード | 進化 / 微生物 / 生体生命情報学 / マイクロアレイ / 次世代シーケンサ |
研究概要 |
本研究は、人工進化過程における微生物の表現型・遺伝子型の変化を高精度に解析することにより、適応進化のダイナミクスを担うメカニズムの根源に迫ることを目的としている。23年度は、ラボオートメーションを用いた自動培養システムの構築を行った。テスト培養として、大腸菌MDS42株を親株とした400時間程度の植え継ぎ培養を行い、M9合成培地において比増殖速度が20%程度上昇した株の取得に成功した。現在、高pH・低pH・高ブタノール濃度・高浸透圧のそれぞれの環境ストレスを加えた環境下での植え継ぎ培養を行っている。この植え継ぎ実験により、これらの環境ストレスへの耐性株を取得した後に、次世代シーケンサを用いたゲノム変異解析とマイクロアレイを用いた網羅的発現解析を用いて、その表現型・遺伝子型変化のダイナミクスを解析する。 加えて、先行研究における進化実験で取得したエタノール耐性大腸菌株について、その表現型・遺伝子型変化の詳細な解析を行った。まず、キャピラリー電気泳動質量分析器(CE-MS)を用いて細胞内の代謝物質濃度の定量を行ったところ、独立の進化実験で得られた複数の耐性株において共通の代謝状態の変化が起こっていることが確認された。また、マイクロアレイ解析を用いて、遺伝子発現プロファイルの時系列を取得したところ、複数の耐性株において共通の発現変化の軌跡を描いていることが示された。次世代シーケンサによる変異解析の結果はゲノム変異において耐性株間で共通性が低いことが確認されており、これらの結果から、ゲノム変異に依らない、長い時間スケールを持つ適応ダイナミクスの存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラボオートメーションによる自動培養システムの構築については、機器トラブルも生じたが、現在ではそれらの問題は解決し、データを取得できる状態までのセットアップが完了している。また、エタノール耐性大腸菌株の解析については、高精度の大自由度データの取得に成功しており、今後の解析によって適応進化ダイナミクスの新たな理解が進むと期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は、自動培養システムによって取得した複数のストレス耐性大腸菌株について、次世代シーケンサによるゲノム変異解析とマイクロアレイによる発現解析を行い、その適応進化ダイナミクスについての詳細なデータを取得する。また、今年度に示唆されたゲノム変異に依らない適応進化ダイナミクスについては、ゲノムメチル化などのエピジェネティクスの機構による表現型変化の可能性を実験的に解析することにより、その理解を試みる。
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