ヒトにおいてダブルコルチン(DCX)の変異は発生期に大脳皮質神経細胞の層構築異常を引き起こす。マウスでは、Dcxはファミリー遺伝子であるダブルコルチン様キナーゼ(Dclk1)と協調的に大脳皮質神経細胞の移動や脳梁を通る神経軸索の伸長において機能する。本研究では、DCXファミリーによる神経系構築の分子、細胞メカニズムを理解するために、DCXにはないリン酸化酵素活性部位を持つDCLK1に着目し研究を行ってきた。 まずDCLK1の結合蛋白質を網羅的に探索し、そのうちin vitroにおける基質として微小管結合蛋白質MAP7D1を同定した。マウス胎仔脳への遺伝子導入により大脳皮質神経細胞においてMAP7D1の発現を抑制すると、脳梁の軸索伸長が抑制された。またDCLK1によるリン酸化部位である315番目のセリンをアラニンに置換しリン酸化を起こらなくした変異体(非リン酸化体)を過剰発現させると、軸索伸長が抑制され、一方、野生型では影響はみられなかった。さらにMAP7D1は軸索輸送に関わるモータータンパク質であるキネシンの1種(KIF5)と相互作用することを明らかにした。KIF5との結合領域を欠失させたMAP7D1の非リン酸化体では、軸索伸長の抑制効果は見られなくなった。よってMAP7D1の非リン酸化体の過剰発現による軸索伸長の抑制は、KIF5との相互作用を介して起きていることが予想された。以上よりDCLK1によるMAP7D1のリン酸化は、KIF5への何らかの制御を介して軸索輸送および軸索伸長に寄与していることが示唆された。 一方、DCLK1が生体内で実際にMAP7D1をリン酸化するかについて、MAP7D1リン酸化体を認識する抗体を作製したが良いものが作製できなかった。今後、2次元電気泳動や質量分析を用いた手法によりDCLK1欠損マウスにおいてMAP7D1のリン酸化をみる必要がある。
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