研究課題
1.Slit発現による新生ニューロンの移動促進と脳梗塞後の再生過程の解析:新生ニューロン自身が発現するSlit1の役割を明確にするため、脳梗塞術後の野生型マウス脳にSlit1欠損または野生型新生ニューロンを移植し、移動を比較した。野生型新生ニューロンは、移植部から梗塞巣に向けて広く分布したが、Slit1欠損新生ニューロンの大部分は移植部付近に留まり、周囲のアストロサイトとの接触にも異常がみられた。2.移動する新生ニューロンと活性化アストロサイトの接触部の微細構造の解析: Slit1欠損マウス・野生型マウス脳梗塞モデルを作製し、H.24年3月より(3ヶ月間)バレンシア大学Garcia-Verdugo研究室にて、傷害部へ移動する新生ニューロンの移動形態・アストロサイトとの接触の電子顕微鏡解析を開始した。3.低酸素曝露後のアストロサイトのRobo発現・局在変化の解析:脳室下帯のアストロサイトが成体でも増殖を続けているのに対し、線条体アストロサイトは生理的条件下ではほとんど増殖しない。線条体アストロサイトを活性化するため低酸素に20時間曝露し、その後のRobo発現の変化をreal-time PCRを用いて経時的に解析した。低酸素曝露によって、急激なGFAP発現の上昇に続いて3日後からRobo2の発現が増加することが分かった。4.新生ニューロンによる活性化アストロサイトの形態制御メカニズムの解析:アストロサイトが新生ニューロンと接触したときの細胞内骨格系の変化を解析するため、脳室下帯アストロサイトを用いてイメージング手法を検討し、予備的データを得た。アクチン重合を可視化する分子を電気穿孔法にて導入したアストロサイトと新生ニューロンを共培養し、レーザー顕微鏡でタイムラプス撮影を行った。移動する新生ニューロンとの接触面で、局所的にアストロサイトのアクチン重合が低下する可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
計画していた実験のほとんどは完了し、移植実験によって、新生ニューロン自身のSlit1発現が、梗塞後の傷害脳でのスムーズな移動に必要であることが明確になった。新生ニューロン・アストロサイトの相互作用については、アストロサイト内のアクチン動態の制御を介するメカニズムを示唆する予備的データを得ており、これを詳細に解析することによって、新規性の高い細胞間相互作用を明らかにできる可能性がある。梗塞部へと移動する新生ニューロンの形態や周囲との接触について、H.24年3月よりバレンシア大学に滞在し(3ヶ月間)、Garcia-Verdugo教授との共同研究として電子顕微鏡解析を開始しているが、この間に習得できる技術は、本研究の今後の解析にも非常に有用である。また、次年度以降に予定している、新生ニューロン・アストロサイト間の相互作用のメカニズム解析に用いる培養実験について、低酸素によるアストロサイトの活性化法・遺伝子導入法・タイムラプス撮影法を検討し、良好な結果を得ている。更に、次年度に行う実験の準備として、Slit1と緑色蛍光タンパク質の発現を同時に誘導することができるレンチウィルスベクターのコンストラクションを行い、細胞株への導入によって両タンパク質の発現を確認した。以上より、本年度以降に計画している実験についても、すでに予備的実験を開始しており、当初の計画以上に進展していると考えている。
本研究の中心的課題である新生ニューロンと活性化アストロサイトの関係について、新生ニューロンが発現するSlit1、活性化アストロサイトが発現するRobo受容体の重要性を強く示唆するデータが得られた。これまで、活性化アストロサイトにおいては、グリア瘢痕形成や、炎症性細胞浸潤の抑制、細胞保護作用などが報告されているが、新生ニューロンの移動というニューロン再生の鍵となるプロセスへの関与は知られていない。現在までに得られたデータから、傷害によって活性化したアストロサイトが、新生ニューロンが発現するSlitタンパク質の受容体であるRoboを発現するように変化すること、新生ニューロンが接触したアストロサイト内のアクチン重合を局所的に抑制する可能性が示唆されている。今後、電子顕微鏡解析にて、傷害脳内を移動する新生ニューロンと活性化アストロサイトの細胞間接触を詳細に解析するとともに、構築した培養システムを用いて、活性化アストロサイトと新生ニューロンの相互作用メカニズムを、アストロサイトのアクチン重合制御に着目して解析をおこなっていく。これらによって、新生ニューロン・アストロサイトの細胞間相互作用の新たなメカニズムを明らかにできる可能性がある。また、本研究で明らかにする傷害部への新生ニューロンの移動メカニズムを応用し、内在性の新生ニューロンの傷害部への移動を促進すること、更には培養神経幹細胞由来の新生ニューロンについても、脳内に移植した後、傷害組織への広範囲な分布を促進する手段についても検討を行う。
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