研究課題
初年度は健常者を対象に道徳観念、共感性、正義性、衝動性、攻撃性、社会認知能力などを客観的・定量的に評価できる行動実験の開発を数理モデル、ゲーム理論なども用いて行った。具体的には司法的判断には仮想的な裁判を想定し、次のような実験を行った。健常者26名が参加した。MRIの中で、被験者は、裁判員になったつもりで殺人を犯した被告人の量刑を決定し、その後MRIの外で、被告人に対してどの程度同情するかを評定した。被験者は、MRIの中で殺人内容を最初に読んだ後、その殺人に至った背景を読んだ後に、量刑を決定した。背景には、同情できそうなもの(同情的背景)と、同情できそうにないもの(非同情的背景)を用意した。同情評定の結果、同情的背景から殺人に至った被告人には同情を高く感じ、非同情的背景から殺人に至った被告人にはほとんど同情しないことが確かめられた。量刑評定の結果、同情的背景から殺人に至った被告人に対しては刑を軽くし、非同情的背景から殺人に至った被告人には厳罰する傾向が認められた。次に、被験者が背景を読んでいる時の脳活動を解析したところ、同情的背景を読んでいる時のほうが非同情的背景を読んでいる時よりも、内側前頭前皮質と楔前部の活動が高く、これらの領域が同情処理に関わっていることが示された。内側前頭前皮質、楔前部は、同情評定が高い場合ほど活動が高まった領域で、また、量刑評定が低い場合ほど活動が高まる領域も、同様の領域であることが判明した。これらの領域は、他者理解、道徳的葛藤、情動反応、認知制御などに関連することが知られており、本実験ではこれらの領域の活動が上昇したことから、被告人への同情と犯罪に対する不快情動との間に生じる葛藤、そして量刑判断という認知制御が、情状酌量に関わっていると推察された。
3: やや遅れている
追加採択のプロジェクトであり、23年度は限られた予算、時間の中で行ったため。
追加採択のプロジェクトで出足はやや遅れたが、限られた予算、時間の中でも、徐々には進行させていたので、大幅な遅れはなく、次年度以降、当初の予定通りに追いつけると思われる。具体的には、リスク判断、共感性、衝動性、社会認知能力などを検討できる課題を作成する(一部作背済み)。課題が作成されたら、対象を精神神経疾患患者に応用し、道徳判断、司法判断、リスク判断を行っている最中の脳活動や眼球運動を測定する。
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Mol Psychiatry
巻: (Epub ahead of print)
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Nature Commun
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Proc Natl Acad Sci U S A
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