研究課題/領域番号 |
23680048
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
井上 貴美子 独立行政法人理化学研究所, 遺伝工学基盤技術室, 専任研究員 (70360500)
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キーワード | 核移植 / 体細胞クローン / RNA干渉 / クロマチン免疫沈降 |
研究概要 |
本年度は、マウス初期胚遺伝子発現操作のために必要なRNA干渉(RNAi)技術の確立と微量サンプルを用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)技術の開発を行った。 1.マウス初期胚RNAi技術の確立 マウス卵においては微少な針を用いてsmall interfering RNA(siRNA)を導入することで、受精後の遺伝子発現を制御することが可能である。本年度はマウス体細胞クローン胚に対する遺伝子制御を目指して、siRNAが有効に機能する条件設定を行った。始めにマウス単為発生胚を用いて条件検討を行ったところ、その効果が最も効果的に現れるのは5-10ug/ulのRNA濃度で注入した場合で、それ以上の濃度になると発生停止を引き起こすことが明らかとなった。次に体細胞クローン胚の発生異常に関わるXist遺伝子について、siRNA導入により発現制御を行ったところ、未受精卵子より活性化6時間後の前核期胚で導入を行った方が、より効率的に発現を抑制することが明らかとなった。本手法をマウス体細胞クローン胚に用いた研究は、共著として発表された。 2.微量サンプルを用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)法の確立 マウス初期胚を用いた微量ChIPを確立するため、体細胞、単為発生胚盤胞期胚を用いて条件検討を行った。体細胞1000個、単為発生胚30個を用いて、ヒストンH3K9me2とH3K4me3抗体を用いてChIPを行ったところ、ChIPグレードとして販売されている抗体であっても、微量サンプルを使用する際は、再現性のある結果が得られないことが明らかとなった。現在は、モノクローナル抗体を用いて条件検討を行っており、PCRレベルでは再現性のある結果が得られている。今後は、マウス体細胞クローン胚を用いて実験を行い、さらにゲノムワイド解析を目的としたマイクロアレイへと実験系を拡大して条件検討を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標としてあげた(1)Xist遺伝子の発現制御、(2)LOCKs遺伝子発現制御、(3)微量ChIPの開発の内、(1)については既に完了し共著者として論文を発表している。(2)においては、配列の類似したファミリー遺伝子が多く、RNAデザインが困難であること、かつ発現が着床前後で限定的であることから、遺伝子発現操作については保留としている。また、(3)については、PCRレベルでは再現性のある結果が得られており、今後は、ゲノムワイド解析へと拡大した条件検討を行っていく予定である。以上の結果から、(1)と(3)については、順調に予定が達成されているため、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、微量サンプルを用いた安定的なChIP手法の確立について主に研究を行っていく予定である。その理由は以下の二点である。(1)これまでの手法より体細胞1000個、胚盤胞期胚30個程度の微量サンプルを用いたChIPについて再現性のあるデータが得られており、本手法は有効な方法であることが期待される。(2)体細胞クローン胚のヒストン修飾においてゲノムワイドに解析を行ったデータはこれまでに見られず、新たな知見に繋がる可能性がある。従って、微量ChIPをゲノムワイドな解析へと拡大し、さらに体細胞クローン胚を研究材料として用いることで、体細胞クローン特異的なエピゲノム修飾異常についての解析を行っていく予定である。一方、LOCKs遺伝子発現制御に関しては、ファミリー遺伝子が多いこと、発現が着床前後の時期に限定されていることから、クローン胚発生改善に繋がる可能性は少ないと判断して、今年度の研究は行わない予定である。
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