研究課題/領域番号 |
23680050
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 宏知 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (90361518)
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キーワード | 神経細胞 / 分散培養 / 微小電極アレイ / 活動電位 / CMOS |
研究概要 |
本研究では,神経細胞の分散培養系を対象として,1.8 mm角の計測領域に,11,011個の電極を有するCMOSアレイにより,計測領域内の全細胞の神経活動と,細胞間を伝播する活動電位を可視化できる.各電極の直径は7μm,電極間距離は17μm,サンプリング周波数は20 kHzと,計測の時空間分解能は極めて高い.本研究では,個々の神経細胞ではなく,神経細胞集団としての情報表現基盤となる神経ネットワークの構造の解明を目指す.特に,大域的なネットワーク構造の秩序,局所的なセルアセンブリ,さらに,それらを調整しうる活動電位の伝播特性を明らかにする. 初年度は,まず,CMOS電極アレイを信頼性の高い実験手法として確立すべく,各種評価実験を実施した.その結果,活動電位の伝播を可視化する際,7~25回の試行を加算すれば,雑音レベルに対して5σ程度のS/N比を確保できることがわかった.また,活動電位が伝播する際,電極間が60μm離れていれば,活動電位のピーク時刻は,電極ごとに異なる値を示した.これは,計測の時間分解能が20μs,活動電位の伝播速度が1 mであることを考えれば妥当な値である.次に,電気刺激により活動電位を誘発する場合,電気刺激が影響する範囲を調べたところ,刺激電極から約10μm以内にある神経突起だけ選択的に刺激できることがわかった.さらに,神経細胞の形態をYFPで可視化したところ,軸索付近を電気刺激すると活動電位が発生するが,樹状突起を電気刺激しても活動電位は発生しないことがわかった.これらの実験により,CMOS電極アレイによる培養神経回路の活動の計測・刺激の性能の詳細を明らかにしたことは,今後の実験に非常に有用である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つは,CMOS電極アレイを利用して,時空間的な活動パターンから,培養神経回路内の細胞ペアの機能的な結合を正しく推定し,ネットワーク構造を可視化することにある.しかし,CMOS電極アレイは未だ確立された手法ではないので,その性能の詳細を本年度に評価できたことは,今後,研究を推進していくうえで,非常に有意義であった.特に,細胞の形態を可視化することで,電気刺激の有効範囲を定量化できたこと,電気刺激は樹状突起ではなく軸索で選択的に活動電位を発生することを明らかにできたことは,実験系の評価として価値がある知見であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
神経回路内の活動パターンは,そのネットワーク形状に依存しているはずである.しかし,ネットワーク形状に依存した神経活動パターンの変化の法則性を明らかにした研究はほとんどない.本研究のCMOS電極アレイは,電気的な活動から細胞体の位置を特定できるので,ネットワーク形状の変化と活動の変化の両方を長期間に渡って追える.この利点を利用し,神経回路を構成する個々の神経細胞の移動を調べ,さらにそれに伴う活動の変化の関係を明らかにしていく.さらに,蛍光タンパク質によるラベリング手法を駆使して,ネットワーク内の各細胞の種類を特定し,ネットワークにおける役割を明らかにしていく.
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