研究課題/領域番号 |
23680050
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 宏知 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (90361518)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 神経細胞 / ネットワーク / 微小電極アレイ / CMOS / カルシウムイメージング |
研究概要 |
神経回路内の活動パターンは,そのネットワーク形状に依存しているはずだが,両者のダイナミクスを明らかにした先行研究はない.特にネットワーク形状に依存した神経活動パターンの変化の法則性を明らかにすることは,成熟した既存の神経回路において,新生した神経細胞が担う役割を明らかにする上で重要である.そこで本研究では,初代分散培養系を研究のモデルとして,神経回路を構成する個々の神経細胞の移動を調べ,さらにそれに伴う活動の変化の関係を明らかにすることを目的とし,下記の実験結果を得た. (1)高密度CMOSアレイを用いて,神経細胞の移動距離に相関する活動を調べた.その結果,播種してから3週間以上経ち,成熟した分散培養系でも,神経細胞は1日当たり2.0±1.0 μm移動することがわかった.また,神経細胞の移動距離とそれに伴う活動の変化には負の相関があることがわかった.つまり,発火頻度の低い神経細胞は活発に移動しやすい. (2)H型セパレータを用いて,発火頻度の比較的低い幼若な神経細胞と,発火頻度の比較的高い成熟した神経細胞を共培養し,その移動を観察した.その結果,発火頻度の低い幼若な神経細胞は発火頻度の高い成熟した神経細胞より活発に移動することがわかった.また,幼若神経細胞群と成熟神経細胞群の機能結合をカルシウムイメージング法によって調べた.その結果,両神経細胞群は,それぞれ培養日数が異なるにも関わらず,互いに神経接続を行っていることを示した. これらの結果から,発火頻度の低い神経細胞は活発に移動しながら,神経回路内での役割を獲得していくと考える.また,このような原則により,実際の脳内では新生した幼若な神経細胞は,既存の成熟した神経回路に取り込まれていくと考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,個々の神経細胞ではなく,神経細胞集団としての情報表現基盤となる神経ネットワークの構造の解明を目的として取り組んできた.実験ツールとして,神経細胞の分散培養系を対象として,1.8 mm角の計測領域に,11,011個の電極を有するCMOSアレイをこれまでに確立してきた.初年度の研究により,計測ツールとしてのS/N比を定量化した.過年度の研究により,ネットワーク構造を把握する手法を確立できた.これらの成果により,CMOSアレイは実験手法として,ほぼ確立できたと考えている.さらに,実験結果も,ネットワークの機能と構造を考察するうえで非常に興味深く,今後の研究の将来性を示していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,CMOSアレイを実験ツールとして,ほぼ確立できた.今後は,CMOSアレイを用いた実験を引き続きすすめ,培養神経回路のネットワーク構造が形成されていく様子を細胞播種後から経時的に精査し,ネットワーク特性の観点から考察する.具体的には,培養神経回路内の任意の部位に,外部から高頻度電気刺激パルスを繰り返し与えることで,神経活動パターンの可塑性を誘導する.局所的な刺激,複数の部位への多点同時刺激,ランダムな刺激など,様々な刺激に対して,どのように,ネットワーク構造やセルアセンブリが変化するかを調べる. まず,各刺激に対して,結合が強くなった細胞ペアと弱くなった細胞ペアを同定する.これらの機能的な結合の変化が,ネットワーク構造のどのような部位に生じやすいかを明らかにする.例えば,ハブの役割をする高活性な神経細胞は,ほとんど活動しない神経細胞と比較して,ネットワーク内での機能は異なるはずなので,そこでの可塑性も異なるはずである.逆に,ネットワーク構造の所望の部位を効率的に変化させるためには,どのような刺激が効果的かも考察する. 次に,任意の細胞ペア間において,機能的な結合の変化と活動電位の伝播速度の変化とを関連付けることで,次の作業仮説を検証する.第一に,セルアセンブリの形成や消滅には,活動電位の伝播速度の変化が伴うことがある.第二に,活動電位の伝播速度の変化を調べれば,その細胞ペアの機能的な結合が増強するか減弱するかを予測できる. さらに,ドーパミンやセロトニンのような神経修飾物質が,ネットワーク構造,セルアセンブリ,活動電位の伝播速度,さらには,それらの可塑性に与える影響を薬理実験で検証する.
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