研究概要 |
細胞の機能が1分子計測により解析されている一方で,細胞を生かしたまま1分子を加工する方法はいまだ確立されていない.そこで本研究では,平成22年度までに研究代表者が実証した電子線励起による培養液中でのナノ造形および細胞加工の原理を応用し,細胞を生かしたままで電子線を照射し分子単位で加工・制御すること研究目的とする.任意の時刻,任意の場所の受容器を複数個独立に操作して受容器の相互作用を解析することに挑戦した. 本年度では,細胞に電子線を照射できる装置の製作をおこなう.この装置により生きた細胞へその場でナノ領域での刺激と加工を行うことができる.本装置にはナノメートルオーダまで集束された電子線を液体中の生きた細胞に照射するために,電子銃のある真空容器側と細胞のある培養容器側を極薄の窓で仕切る装置が必要がある.そこで100nm以下の窒化シリコン薄膜(SiN)を真空と液体(大気圧)との仕切り窓として使用して,ナノメートルレベルのビーム収束性と生細胞の刺激・加工を両立するシステムとする. 本システムは,同一光軸に落射蛍光顕微鏡と電子線走査系を同軸に配置することで,リアルタイムでの細胞膜上のタンパク質レベルの刺激と,その場観察を可能とすることができる.これは,これからの生物学において重要な視点である細胞システムの時間応答性に関するデータが得られるシステムである.計測された刺激応答画像からリアルタイムにフィードバックし,次ステップの刺激とすることで,細胞システムの真のダイナミクスが検証できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では,細胞に電子線を照射できる装置の製作をおこなうことができた.この装置により生きた細胞へその場でナノ領域での刺激と加工を行うことができる.本装置にはナノメートルオーダまで集束された電子線を液体中の生きた細胞に照射するために,電子銃のある真空容器側と細胞のある培養容器側を極薄の窓で仕切る装置が必要がある.そこで100nm以下の窒化シリコン薄膜(SiN)を真空と液体(大気圧)との仕切り窓として使用して,ナノメートルレベルのビーム収束性と生細胞の刺激・加工を両立するシステムである.本年度はシステム構築とその有効性確認を行うことができたので,おおむね目標を達成できている.
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今後の研究の推進方策 |
細胞膜近傍での高分子電解重合とこれによる細胞膜への刺激を蛍光顕微鏡を用いたその場観察で,細胞膜タンパク質への刺激に対するダイナミクスを検証する.平成24年度は本装置を用いた細胞膜刺激に対する細胞の応答を検証し,細胞内の動的システムの可視化と生理学的なテーマへの応用を模索する. また,電子線による直接刺激だけではなく,ケージド化合物を介した伝達物質による化学的刺激も視野に入れ前駆物質を用いた基礎実験を行う.また,加工に使用できる材料のバリエーションを増やすために,ドラッグデリバリーなどで広く用いられているケージド化合物やナノカプセルなどの可能性を検討する.ケージド化合物等から電子線励起で内在薬物を排出させ,ナノ領域の化学刺激を狙った受容器に施すことができる.このような系はシナプス小胞からの伝達物質放出のモデルと類似した機構であり,神経信号伝達システムの解析に大きな革新をもたらすことが期待できる.
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