研究課題/領域番号 |
23680065
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
河野 史倫 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90346156)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 骨格筋特性 / エピジェネティクス / 筋活動 / ヒストン修飾 / 遅筋・速筋 |
研究概要 |
姿勢保持のため持続的な活動を行うヒラメ筋と、歩行時に断続的に動員される足底筋を解析のターゲットとし、ヒラメ筋において転写量が極めて少ない5つの遺伝子座を対象にChIP-qPCR法を用いて各種ヒストン修飾解析を行った。その結果、これらの遺伝子座においてはH3K4me3およびH3K9ac修飾が足底筋の特に転写領域内で多く、H4K20me3は転写開始点の上流・下流を問わずヒラメ筋に多く認められた。H3K9meとH3K27me3には筋種間の違いは認められなかった。さらに、坐骨神経切除によるヒラメ筋の不活動が遺伝子発現およびヒストン修飾に及ぼす影響を検討した。成熟ラットを麻酔し、左側臀部において坐骨神経を切除した。28日後、同側のヒラメ筋を摘出し、対象遺伝子発現の定量ならびにChIP解析を行った。不活動によりヒラメ筋重量は実験前から比べて約3分の1まで萎縮した。5つの対象遺伝子には、除神経によって発現増大するものと発現変化しないものが認められた。H3K9ac修飾は、発現増大した遺伝子座では修飾頻度が高まり、発現変化しない遺伝子座では修飾頻度の変化もなかった。H3K4me3およびH4K20me3には、除神経による遺伝子発現変化との関連は認められなかった。以上の結果から、筋活動の増減による転写制御にはヒストンのアセチル化が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
骨格筋の活動により発生するエピジェネティクスを検索している。当初は、遅筋・速筋には異なるエピジェネティクスが誘発され、活動量や頻度に応じて適応するものと考えていた。しかし、ターゲットにしている遺伝子の一部では、一度ヒストンの脱アセチル化に伴い遺伝子発現が抑制されると、不活動条件下でも再アセチル化されず、遺伝子発現も変動しないことが分かった。このように一度獲得した筋特性が不変化する機構が本当に存在するのか、現在、自発走運動モデルを用いて筋線維レベルでの解析を進めている。同時に、不活動によりアセチル化されにくい遺伝子座を検索すれば、どのような遺伝子群がこのような不変化を引き起こすのかも明らかになるため、次世代シーケンサーを用いたマッピングも進行中である。以上のように、当初の目的のみならず骨格筋特性の獲得や維持に対する新しいメカニズムの発見につながる現象を見出しており、それらの解析も概ね順調に進んでいることから、本計画は当初の計画以上に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
運動により獲得した筋特性が一部の遺伝子では不変化するのか証明するため、成熟ラットを用いて28日間の自発走運動を実施した。半数のラットからは運動期間直後に足底筋をサンプリングし、残り半数は通常の飼育に戻し28日間detrainingした後にサンプリングを行った。現在、これらの実験から得た筋サンプルを解析中である。筋線維はそれぞれ様々な特性を保有しており、全筋から抽出したRNAやクロマチンでは上述の現象にアプローチするのは困難であるため、単一筋線維における遺伝子発現解析手法を確立した。この解析により運動の影響を受けやすい筋線維や単一筋線維内での遺伝子発現プロファイルをクリヤーに評価することが可能となった。また、これらの現象にヒストン修飾変化が伴っていることも示す必要があるため、単一筋線維におけるChIP解析方法についても今年度中に確立する予定である。今年度の解析の結果、再アセチル化されにくい領域にどのような遺伝子がコードされているのか明らかになる。これにより骨格筋のどのような機能に上述のメカニズムが関与するのかも予測できるため、これらの遺伝子座が判明すれば単一遺伝子のノックダウン実験を実施し、骨格筋機能への影響を追求する。
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