研究課題/領域番号 |
23680067
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
土持 裕胤 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (60379948)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 運動 / 心臓 / 迷走神経 / 心拍数 / 心臓自律神経 |
研究概要 |
昨年度に引き続き、ラットおよびマウスを用いて、心臓副交感神経である迷走神経心臓枝、および反回神経下心臓枝の神経活動計測を試みた。麻酔下ラットにおいては、呼吸周期に同期した遠心性心臓迷走神経活動が記録できた。また、従来、心臓迷走神経活動が計測できないのは麻酔により神経活動が抑制されるためであると考えられてきたが、神経束丸ごとからの複合活動電位ではなく、神経を末梢側で切断してシングルファイバーレベルでスパイクを測定すれば、麻酔下でも神経活動が測定できる事がわかった。 将来的に意識下の動物からの計測を行う場合、交感神経計測で用いるような、神経束からの差動増幅方法では求心性神経活動の混入が多すぎて遠心性神経活動の評価が出来ない事がわかった。また、麻酔下で行ったように神経束を割いてシングルファイバーで計測することは難しい。そこで、埋め込み型の微小電極を用いてスパイクの導出が可能かどうか、検討中である。 神経活動計測法の確立と並行して、心臓迷走神経活動の賦活化方法の検討を行った。あらかじめ血圧送信機を埋め込んだラットを密閉チャンバー内へ入れ、一過性の低酸素負荷を行ったところ、初期には交感神経系の活性化によると思われる血圧・心拍の上昇が生じ、後半には心臓迷走神経の活性化によると思われる著しい徐脈応答および不整脈が観察された。この徐脈および不整脈はM2アセチルコリン受容体遮断薬であるAFDX-116、および非選択的ムスカリン性アセチルコリン受容体アンタゴニストである硫酸アトロピンの投与によって抑制された。さらに、この低酸素負荷による心臓迷走神経の賦活化は、低酸素ガスへのCO2添加(5%CO2)によって著しく増大する事がわかった。今後、この方法により心臓迷走神経活動の応答特性の評価が可能となると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
心臓迷走神経活動計測は、交感神経活動計測とはいろんな点で異なった手法を用いなければならない事が次々と明らかになってきた。例えば交感神経の場合は、測定する神経束によっては求心性神経の混入が非常に少なく、電極さえ留置出来れば測定が可能であった。他方、心臓迷走神経は求心性神経線維を多く含んでいるため、遠心性神経活動はその中に埋もれてしまっており、区別がつきにくい。しかも麻酔下や除脳下では求心性神経活動はあまり抑制されないが、遠心性神経活動は抑制されるため、シグナル全体に対する遠心性神経の割合がさらに減り、見掛け上、遠心性神経活動がほとんど抑制されているかのように見えていた。これまで、交感神経活動計測と同様に、神経束丸ごとからの計測を試みていたため、その事に気づくのが遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、 1.【記録電極の開発】埋め込み型の金属微小電極を用い、複合活動電位としてではなくマルチユニットでの計測を試みる。マルチユニット計測が成功すれば、求心性神経の活動電位と遠心性神経の活動電位が判別可能なはずである。求心性神経活動の混入が多すぎて遠心性神経活動の計測が困難な場合には外科的またはターゲットトキシン等を用いた化学的除神経を試みる。安定してマルチユニット計測が可能となった場合には、測定をテレメトリー方式にする。 2.【測定条件の検討】昨年に引き続き、麻酔薬の工夫および除脳・無麻酔動物を用いて心臓迷走神経活動の計測を試みる。麻酔下または除脳・無麻酔動物においても運動時の心臓副交感神経活動応答を評価できるように、視床下部または中脳歩行誘発野の刺激による偽歩行(歩行時の運動神経活動は誘発するが、実際には筋を収縮させるには至らない状態)の誘発方法を確立させ、実際の運動時にも生じるであろう神経活動応答を調べ、実際の運動時の応答を推察する。無麻酔動物での測定にはトレッドミル装置を用いる。 3.【中枢と末梢の関係】迷走神経の中枢である擬核、迷走神経背側運動核の刺激や抑制、迷走神経求心路の入力部位である弧束核の刺激または抑制、およびこれら神経核の神経活動計測法を確立し、中枢性制御機構の解明を試みる。末梢での神経活動計測の際に、求心性神経の混入がどうしても除外できない場合には、擬核等、中枢の神経活動を計測する事によって、求心性神経活動の影響をキャンセルできる。
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