麻酔下実験:遺伝子組み換えにより蛍光タンパク質で神経を可視化したマウスを用い、迷走神経の枝を追跡することが可能となっていたが、マウスの小ささから電極の留置が困難であった。しかし胸郭内ではなく頸部からの導出を試み、これにより心電図や呼吸筋の筋電図の混入を低減できる可能性が出てきた。電極の小型化は継続して取り組み中である。また、麻酔の種類、体温、換気状態が心臓自律神経活動および心機能に及ぼす影響を詳細に調べ、麻酔下でも心臓迷走神経が抑制されにくい条件を探った。麻酔下のマウスは体温の低下が心臓自律神経活動および心機能を著しく低下させたことから、麻酔下での神経活動計測時には麻酔の種類に加え、体温の維持が特に重要である事が明らかとなった。 意識下実験:現時点では麻酔下ラットおよびマウスの迷走神経遠心性神経束(末梢側離断端)からのマルチユニット計測のみ成功しているが、意識下ラットからの計測は成功していない。ラットでのテレメトリー方式による測定は装置自体(電極の構造)がまだ改良の余地があり、現時点の仕様では心臓迷走神経の測定には適用できないことが判明し、改良を検討中である。一方、テレメトリー式血圧測定により意識下動物のトレッドミル運動または自発的回転ホイール運動中の心拍数・血圧を連続的に測定可能であり、その際の神経活動を有線で導出する計測系はほぼ実用可能となった。ラットにおいては上行大動脈、肺動脈、および心筋組織血流量を連続測定可能となり、神経活動と心機能の同時評価が可能となった。心臓副交感神経性心機能調節メカニズムの解明には神経活動と心機能の両方を測定することが重要であるため、まず意識下動物から運動時の心機能評価に関する項目を計測可能となったことは、心臓副交感神経系の調節メカニズムの解明に向けて、生理学的観点のみならず、病態生理学的観点からも重要である。
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