研究課題
漆膜3種(中国産・ベトナム産・ミャンマー産)について厚さ76μmの試料(二年間経過した試料)について、サンシャインウェザーアーク及びキセノンアークランプによる劣化試験を100時間・200時間の2通りについて行った。これら15パターンの試料についてマッピング分析を行い、漆膜の劣化は通常の高分子とは異なることが示唆された。具体的には、合成高分子の場合には劣化深度は一定であり、ある一定の深度範囲のみで劣化が進行する。つまり、全体の厚さはほとんど変化せずに深い部分の劣化状態がより深刻になっていく。一方、漆膜の場合は劣化の進行に伴ってその劣化深度が深くなっていくことが本研究により明らかとなった。これは、これまでの研究により明らかになっている、漆膜は劣化に伴った薄くなるという結果と合わせて考えると、漆膜の劣化は表面から進行し、ある深さになったときに表面部分の欠損が発生すると言うことを示唆している。この欠損により、厚みが減るとその分深い部分まで劣化が進行するということが繰り返されることで漆膜の劣化が進行していることが判明した。この結果は、実際の試料の分析を行った場合に得られた結果を解析する上で本来の厚さ(試料の有り様)を予想する場合に重要な要素である。この解析には様々なパターンをあらかじめ予想し、様々な漆膜についての検討を行う必要があることが判明した。現状では、主に顔料や油の含まれた漆膜についての検討を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
漆膜断面のマッピング分析により、漆の劣化の進行は一般の合成高分子とは異なることが確認できた。この点は計画目標を達成できた。しかしながら、機械の移動・引っ越しなどにより多層膜の評価が不十分で有りこの点が予定よりも若干進行が遅れている。
漆膜自身の劣化が一般的な高分子と異なる事が分かった為、劣化深度はその劣化時間との関連性がある事が予想される。このことは非常に有用な結果であるが、塗膜表面が欠損した場合にその劣化状態が本来の状態とは異なってしまうためこの点を解決する必要がある。考古試料に関しては浦添市美術館館長宮里正子氏・東京都文化財研究所北野信彦氏のご協力により、琉球漆器・東南アジアの漆器・安土桃山~江戸時代の漆器・漆塗装について多くの試料が提供された。これらの分析結果は随時発表を行う予定である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Takayuki Honda, Xiaoming Ma, Rong Lu, Daisuke Kanamori, Tetsuo Miyakoshi
巻: 121(5) ページ: 2734-2742
DOI10.1002/app.33736