2012年度より利用を開始したATR-FT/IRによるマッピング分析により、クロスセクション用に作成した試料において断面からの化学的な分析が可能となった。本測定手法を用いて、2012年度におこなった中国産の生漆膜の分析のみだけでなく、ベトナム産・ミャンマー産およびその混合漆膜までその測定対象を拡大した。これらの漆膜について、表面・裏面・側面(クロスセクション)からの分析を行った。 これらの分析には作成直後の漆膜と、紫外線照射器によって強制劣化を行った漆膜を用いた。その結果、48時間の照射までは劣化が表面から浸透していく様子が見られたが、168時間経過時点では裏面まで劣化の指標となるアルデヒド基が存在していることが確認できた。このことは、2012年度に確認された、『ある一定の厚さで劣化が進行し、塗膜全体の厚さが薄くなってその深度は変わらなかった』という結果と異なっている。このことから、強制劣化で使用するランプの波長や強度によって、漆膜の劣化の進行速度だけでは無く、その深度にも影響を与えることが指摘された。これは、一般の合成高分子が劣化する際の『全体の厚さが不変で表面からある厚さまで劣化がより悪化する(化学反応が進行する)』という事象と大きく異なっており、漆という天然高分子が持つ特性を良く表現している結果だと考えられる。 なお、これらの研究内容については、2012年度の日本文化財科学会および19th International Symposium on Analytical and applied Pyrolysisにて発表を行った。
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