本研究で開発した「黄砂発生輸送モデル」を用いて、地球温暖化に伴う気候変化の情報を反映させた長期間シミュレーションを一部実施した。このシミュレーションでは、全球気候モデル「MIROC」によるSRES-A1Bシナリオ実験の結果から得られた気候予測データと、20世紀再現実験結果から得られた気候再現データをモデルに組み込んだ。具体的には、気温・比湿・ジオポテンシャル高度・風のuv成分・地表面温度について、将来(2080-2100年)と近年(1980-2000年)の差分(以下「温暖化差分」と呼ぶ)を、全球気候モデルの各グリッド毎に算出し、6時間毎の温暖化差分データを作成した。そして、作成した温暖化差分を、黄砂の発生と輸送のシミュレーション(水平解像度:20km)の初期・境界条件となる数値データに加算した。高解像度シミュレーションの初期・境界条件となる数値データに温暖化差分を加算する方法は「擬似温暖化法」と呼ばれ、それが、全球気候モデルのもつバイアスへの依存を低減させたダウンスケーリングを可能にする手法であることから、気候変化予測に関する多くの先行研究で用いられているものの、それを黄砂等の大気汚染物質動態の将来変化シミュレーションに応用した先行研究はない。これにより、本研究では、全球気候モデルのバイアスを低減させた上で黄砂発生輸送の将来変化をシミュレートした。地球温暖化の進行に伴う気候の将来変化が黄砂の発生と輸送に及ぼす影響を予測した研究は現在のところ希少であり、本研究で実施した数値シミュレーションの結果を解析することで、黄砂の発生・輸送の将来変化が量的・空間的に明らかになるとともに、黄砂等のミネラルダスト、あるいは他の大気汚染物質の動態の将来変化に関する今後の研究に資する知見が得られることが期待される。
|