研究課題
大腸癌の自然発症性遠隔転移モデルの作出(A)Apc/Aes/vCreERT2とKras、p53の複合変異マウスをそれぞれ作出するKrasの条件的活性化マウス、p53の条件的欠損、および優性不活性(dominant-negative)体の条件的発現マウスをApc/Aes複合変異マウスと交配することで、腸上皮特異的に上記遺伝子を改変できる複合変異マウスを作出した。これらのマウスの腸腫瘍の組織型を対照であるApc/Aes変異マウスと比較したが、明らかな差は認められなかった。(B)Pik3caの条件的活性化マウスを作出し、Apc/Aesとの複合変異マウスを作出するヒト癌においては、PIK3CA (Phosphatidylinositol 3-kinase, catalytic, alpha polypeptide)の一アミノ酸置換(H1047R)を引き起こす点突然変異が、KRAS、P53と並んで高頻度に見つかる。この変異により、PIK3CAが恒常的に活性化することが知られている。近年、大腸癌患者における転移巣の形成とこの変異が有意に相関することが分かり、転移におけるPIK3CAの役割に注目が集まっている。そこでApc/Aes複合変異マウスにPik3caのH1047R変異を導入すれば、癌細胞の転移が観察できる可能性がある。これまでに活性化型Pik3caを発現するトランスジェニックマウスの報告は無く、胎生致死の可能性があることから、Pik3caの条件的活性化マウスを用いることが望ましい。しかしながら、現在までにこのマウス作出の報告もないため、本年度はまずこのマウスの作出を行なった。既に樹立に成功していたH1047R変異アレルを持つES細胞を使用し、ジャームライン伝達マウスを得た。このアレルをApc変異マウスに導入し、条件的にPik3caの活性体を発現する複合変異マウス(Apc/Pik3caH1047Rマウス)を作出したところ、腸腫癌の著しい局所浸潤が観察された。
2: おおむね順調に進展している
予定していた複合変異マウスの作出および新たな変異マウスの作出も比較的順調に進み、解析を開始することができた。懸念されていた生殖系列伝達マウスをすぐに得られたことが大変大きい。当初の予定に沿って順調に進行中である。
今後は複合変異マウスの解析に十分な個体数を確保する必要があることから、マウスの交配をさらに積極的に進める予定である。腫瘍形成の影響で衰弱が早く、限られた交配期間となってしまうので、交配の規模を従来の倍に増やすことを検討している。また、作出した複合変異マウスについては組織学的・生化学的解析を進め、大腸がん悪性化伸展の治療標的の同定を進めたい。最終年度ということもあり、効率よく結果を得て論文発表できるよう一層努力したい。
すべて 2011 その他
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Int.J.Clin.Oncol.
巻: 16 ページ: 464-472
10.1007/s10147-011-0307-2
http://www4.mfour.med.kyoto-u.ac.jp/frameTOP(J).htm