研究課題/領域番号 |
23680090
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
齋藤 義正 慶應義塾大学, 薬学部, 准教授 (90360114)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 胃がん / マイクロRNA / エピジェネティクス / DNAメチル化 / ヒストン修飾 |
研究概要 |
胃がんの発生・進展に重要な役割を果たすマイクロRNAを探索するため、胃がん組織におけるマイクロRNAの発現プロファイルの網羅的解析を行った。その結果、miR-29c発現が非がん部に比べがん部において有意に低下していることを見出した。さらにmiR-29c発現が前がん病変である胃腺腫から早期胃がんへと進行する過程で低下し、進行胃がんでは早期胃がんよりも顕著にmiR-29c発現が低下することを発見した。miR-29cの標的遺伝子の一つであるMcl-1の発現が進行胃がんにおいて上昇しており、miR-29cの発現低下がMcl-1を活性化して胃発がんに重要な役割を果たしていることが考えられた。また、AGS細胞に選択的COX-2阻害薬であるcelecoxibを投与したところ、miR-29cの有意な発現上昇を認め、標的遺伝子Mcl-1の発現が抑制されることでアポトーシスを誘導した。 次に、胃がんにおいてエピジェネティクス変化により制御されているマイクロRNAの同定を試みた。クロマチン免疫沈降法(ChIP)と独自に開発したマイクロRNAプロモーターアレイ解析を組み合わせたChIP on chip解析にて、アセチル化ヒストンH3およびメチル化ヒストンH3リジン4の有意なシグナル上昇を認め、かつCpGアイランドを有している22のマイクロRNAを同定した。特にがん抑制マイクロRNAとして機能することが報告されているmiR-9が非がん胃粘膜に比べ胃がん組織で有意に低下していた。胃がん細胞株をDNAメチル化阻害薬およびヒストン脱アセチル化酵素阻害薬で処理することによりmiR-9の著明な発現上昇を認めた。以上の結果から、miR-9およびmiR-29cが胃がんにおける新たな分子マーカーになると同時に、エピジェネティック治療の標的になることが考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった胃がん関連マイクロRNAの探索については、順調に進展していると判断している。十分なインフォームド・コンセントのもと、胃がん患者より採取した胃がん組織および非がん胃粘膜を用いて網羅的解析を行い、胃がんの発生・進展に深く関与するマイクロRNAとしてmiR-29cを同定した。miR-29cの発現は正常胃粘膜よりも前がん病変で低下し、早期胃がん、進行胃がんと病期や悪性度が進むにつれさらに低下することを見出した。さらにがん遺伝子Mcl-1を標的としていることから、miR-29cの発現低下はMcl-1の上昇を誘導し、がんの進展に重要な役割を果たすと考えられる。miR-29cが胃がんの新たな分子マーカーとなり、胃がん患者の予後や治療反応性などの予測因子となることが期待される。 一方、エピジェネティック治療への応用についても、おおむね順調に進展している。クロマチン免疫沈降法(ChIP)と独自に開発したマイクロRNAプロモーターアレイ解析を組み合わせたChIP on chip解析にて、miR-9が胃がん細胞においてエピジェネティクス変化により制御されていることを発見した。miR-9はがん抑制マイクロRNAとして機能することが報告されているが、胃がん細胞をDNAメチル化阻害薬およびヒストン脱アセチル化酵素阻害薬で処理することによりmiR-9の著明な発現上昇を認めた。miR-9が胃がんに対するエピジェネティック治療の新たな標的になると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
近年、がんにおいても幹細胞ヒエラルキーが存在することが示唆されている。すなわち、がん組織が永続的な自己複製能と多分化能をもつがん幹細胞と、より限定的な増殖能をもつ分化したがん細胞のheterogeneousな集団により構成されていると考えられている。分化したがん細胞を抗腫瘍薬で死滅させたとしても、自己複製能と多分化能を有するがん幹細胞が残存していれば、再びがん細胞が増殖することになり、根本的な治療にはならない。これが治療抵抗性がんの本質であり、難治性胃がんの分子メカニズムの解明や新規治療法の開発を行う上で、がん幹細胞の概念を導入することは必要不可欠であると考えられる。今後の研究では、これまでに得られた研究成果を基盤とし、研究対象を胃がんから胃がん幹細胞に拡大してエピジェネティクスとマイクロRNAの変化を詳細に検討する。 エピジェネティック治療が胃がん幹細胞に対する新たな薬物療法となるか検討するため、胃がん幹細胞を分離・培養し、DNAメチル化阻害薬、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬、ヒストンメチル化酵素阻害薬によって処理し、エピジェネティクス変化、マイクロRNAの発現プロファイルおよび細胞増殖能を解析する。さらに重度複合免疫不全マウスであるNOGマウスの背部皮下に胃がん幹細胞塊を移植後、上記のエピジェネティクス作用薬を投与し、エピジェネティック治療による胃がん幹細胞に対する腫瘍抑制効果について詳細に検討する。本研究により胃がん幹細胞の分子マーカーの確立と難治性胃がんに対する革新的な治療戦略を開発することを目指す。
|