湖沼から放出されるメタンは、湖底付近の嫌気環境で生成したものと考えられてきた。しかし、湖の好気環境にもメタン極大が出現することが明らかとなってきた。このメタン極大の形成プロセスには浮遊性微生物が関与していると考えられるものの、その生成機構と関与する微生物は未だ明らかとはなっていない。そこで本研究は、バッチ培養により好気的メタン生成に影響を及ぼす因子を明らかにするとともに、CARD-FISH法により好気的メタン生成に関与する微生物を特定することを目的とした。 調査は、山梨県西湖にて行った。2013年3月~12月に湖内の4地点において定期採水を行い、溶存メタン濃度の分布と季節変化を調査した。また、湖水試料に4つのプローブをハイブリダイズさせ、CARD-FISHにより浮遊性細菌群集の分布を定量化した。さらに、7月の湖水試料を用いて室内培養実験(栄養塩添加、阻害剤添加、基質添加)も行った。 野外調査の結果から、西湖では夏期に水温躍層付近において巨大なメタン極大が出現することが明らかとなった。メタン極大周辺ではクロロフィルa濃度と溶存酸素濃度が上昇していたことから、現場の光合成生物かその近傍からメタンが生成していると考えられた。培養実験では、メチルホスホン酸を添加した実験区でメタン濃度が大きく上昇することが明らかとなり、C―Pリアーゼによるホスホン酸代謝(C―P結合開裂)が駆動し、メタンが生成していると考えられた。また、CARD-FISHからC―Pリアーゼを有するシアノバクテリアSynechococcusの細胞密度がメタンのプロファイルによく一致していた。以上の結果から、湖沼の好気環境におけるメタン生成にはSynechococcusによるホスホン酸代謝が関与している可能性がきわめて高いと考えられた。
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