研究課題
本研究は二酸化炭素の貯留・変換方法の一つである、「海底堆積物中の微生物によって二酸化炭素をメタンに変換し再利用する手法」の実現のための基礎研究として、未だ明らかでない堆積物中での微生物による二酸化炭素変換過程と、生成されたメタンの存在状態について定量的なモデルを作ることを目的とする。平成23年度は、堆積物試料を用いて、^<14>Cを加えたCO_2を添加したインキュベーション実験を行い、単位時間あたりの溶存有機物^<14>Cの移動量を計測しこれらの経路の寄与を調べるため、HPLC Radioisotope detectorを導入した。日本海で採取された堆積物を用いてインキュベーションを行い、液体クロマトグラフィーによりODSカラムを用いて分画し、メタンや酢酸以外のCO_2からの生成物を探した。このインキュベーション実験により、添加したCO_2の一部は酢酸だけでなくより極性の大きい物質(ギ酸など)に変換されていることが明らかとなった。また、平成21年に行われた紀伊半島沖熊野海盆の海底泥火山で掘削された堆積物から得られた生物地球化学的データをまとめ、メタンの水素同位体比と、溶存無機炭酸(DIC)とメタンの炭素同位体比の差は、メタンの大部分が水素酸化型(二酸化炭素還元型)メタン生成代謝によって生成されたこと、DICと酢酸の炭素同位体比の差が大きいことから、一般に炭素同位体分別が大きいとされる還元的アセチルCoA経路を経てDICから酢酸が生成されるホモ型酢酸生成の寄与が大きいことを明らかにした。また水素酸化型メタン生成活性に比べ、ホモ型酢酸生成活性が高い値を示したことや、高い水素濃度存在下における熱力学的な反応条件からも、同環境におけるホモ型酢酸生成が重要な生物地球化学的プロセスであることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定どおり平成23年度中にHPLC Radioisotope detectorを導入し、^<14>Cトレーサーを用いたインキュベーション実験を開始、酢酸やメタン以外のCO_2からの生成物を見つけることができた。またそれ以外でも、海底泥火山という深部由来堆積物が噴出している特殊な環境下では、ホモ型酢酸生成が重要な生物地球化学的プロセスであることを明らかにした。
本年度、地球深部探査船「ちきゅう」による掘削航海に参加する予定である。一つは、紀伊半島沖熊野海盆内の海底泥火山の掘削で、堆積物の圧力を保持したまま堆積物を回収し、現場のメタン濃度の測定を行う。これまで堆積物回収時の脱ガスの影響により、正確にはわからなかったメタン濃度が明らかになることで、二酸化炭素からメタンへの変換が海底下でどれくらいの割合でおこっているのかを見積もる上で重要なデータとなる。
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Organic Geochemistry
巻: 48 ページ: 47-55
10.1016/j.orggeochem.2012.04.004