研究課題/領域番号 |
23681009
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
平山 順 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (90510363)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 概日リズム / ストレス応答性リン酸化酵素 / MKK-JNKシグナル |
研究概要 |
概日リズムとは、遺伝子発現、細胞のエネルギー代謝、動物の行動といった分子、細胞、および個体レベルの生命現象に観察される約24時間周期の変動であり、分子時計と呼ばれる機構により細胞自律的に制御される。特に哺乳動物の分子時計は、転写活性化因子CLOCK、BMALおよび転写抑制因子CRY、PER (PER1, 2, 及び3)の時計蛋白質により構成される。CLOCKはBMALと二量体を形成しCry及びPer遺伝子の転写を活性化する。一方、CRYとPERはCLOCK:BMAL1二量体に直接結合しその転写活性を抑制する。分子時計の転写の活性化と抑制の周期は約24時間になるように調節されており、従ってその標的遺伝子の発現および標的遺伝子の制御する生理機能には日周性が与えられる。 MKK7-JNKシグナル経路は物理化学的ストレスや炎症性サイトカインなどの様々な刺激に応答し細胞死や細胞分化、サイトカイン産生など細胞機能を制御する。現在までの研究により、培養細胞において、1) MKK7-JNKシグナルがPER2をリン酸化し安定化させること、2) Mkk7の遺伝的機能阻害により分子時計標的遺伝子発現の周期が伸長することを見出し、MKK7-JNKシグナルがPER2のリン酸化修飾を介して分子時計の周期を制御すること見出した。 哺乳動物において、脳の視交叉上核に存在する分子時計(中枢時計)が行動周期といった個体レベルの概日リズム制御の中核である。本研究は、中枢時計のMKK7-JNKシグナル経路を機能阻害するために神経細胞特異的Mkk7-KOマウスを作出した。興味深いことに、このKOマウスでは、恒暗条件下における行動リズムの周期性の顕著な低下が観察された。今後、この行動リズムの周期性異常の背景にある分子機構の解析し、個体レベルでMKK7-JNKシグナルの概日リズム制御における役割の解明を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究は、培養細胞を用いた生化学的解析より、放射線や紫外線等のストレスに応答し活性化されるMKK7-JNKシグナル経路が主要な概日リズム制御因子であるPER2の機能制御を担うこと、さらにこの制御が分子時計の周期制御に関与することを見出し原著論文いて報告した(Uchida Y et al. J. Biol. Chem. 2012)。さらに、この知見を発展的に展開するために、神経細胞特異的Mkk7-KOマウスを作出し、行動リズムを解析したところ、このマウスが概日リズム異常を呈することを見出した。本研究は、生体のDNA損傷応答と概日リズムの関連の分子機構を生化学的解析ならびマウス個体レベルで理解することを目的としているが、上記の成果はこの目標をおおむね達成していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の解析は、本研究期間中に作出した神経細胞特異的Mkk7-KOマウスの呈する行動リズム異常の背景にある分子メカニズムに注目し研究を進め論文作成を目指す。MKK7-KOマウスの解析の知見を、培養細胞系の成果と合わせ、MKK7-JNKシグナル経路を介した分子時計のDNA損傷応答における役割の体系的な理解を目指す。
|