研究概要 |
概日リズムは、多様な生理機能に日周性を与え外環境に同調させることで生体の恒常性を維持する機構であり、細胞自律的な分子時計により形成される。放射線や活性酸素種によるストレスはこの概日リズムによる恒常性維持機構に影響を与えるが、その分子機構は解明されていない。 脊椎動物の分子時計はCLOCK, BMAL, CRY, PERの時計蛋白質により構成される。CLOCK:BMAL二量体は、CryおよびPer遺伝子の転写を活性化し、CRYとPERはCLOCK:BMAL二量体に結合しその転写を抑制する。この転写の活性化と抑制は約24時間の周期で自律的に繰り返されるため、分子時計の標的遺伝子の発現ならびに標的遺伝子の制御する行動、代謝、体温などの生理機能には日周性が与えられる。本研究は細胞レベルの解析から、定常状態の細胞においてMKK7シグナルが時計蛋白質のリン酸化修飾を介し分子時計の周期制御を担うというモデルを提唱した 。行動リズムといった個体レベルの概日リズムは脳の視交叉上核に存在する分子時計(中枢時計)により制御される。本研究は、神経細胞特異的にMkk7を欠損するマウスを作出した。このマウスの行動解析を行った結果、野生型マウスと異なる行動リズムを示すことを見出し、MKK7シグナルが個体レベルの概日リズム制御に関わることが強く示唆された。 近年、様々なストレス因子が概日リズムの乱れを引き起こすことが明らかとなっているが、放射線や酸化ストレスにより概日リズム障害が誘発される機構に関しては不明な点が多く存在する。今後の研究は、「ストレス応答性シグナル経路による分子時計制御」という本研究の知見を基盤に、放射線や酸化ストレスが概日リズムの乱れを生じさせる分子機構の解明を目指していきたいと考えている。
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