研究課題
本研究は「内分泌撹乱化学物質のヒトにおけるリスク評価へ向けた脳発達影響評価系の確立と応用」を課題として3年計画で実験動物(カニクイザル・ラット)を用いた個体レベル(in vivo)および細胞レベル(in vitro)での実験系の構築を目指す。3年計画の初年度である本年度は未だ情報の少ないカニクイザルの脳発達を分子生物学的に明らかにしながら、その発達に重要である甲状腺ホルモンの役割の有無・程度について検討した。具体的にはモノアミン系神経伝達のひとつであるドーパミン系神経伝達で働く受容体、トランスポーター、合成酵素、および代謝酵素について胎齢110、140日、生後30、60、90日、および4歳の脳各部位(前頭葉皮質、帯状皮質、尾状核、海馬、および小脳)でのタンパク発現量を評価した。その結果、ドーパミン系はグルタミン酸やGABAを用いた神経伝達系よりも早期から発達することが明らかとなった。現在、発達期甲状腺ホルモン欠乏カニクイザルの脳各部位のタンパク発現量を精査している。これらの情報は霊長類の脳発達に関する分子生物学的情報として重要である。また細胞レベルでの影響評価系の確立を目的として胎齢80日カニクイザルおよび生後2日のラットから培養アストロサイトを培養液等同一の試薬で調整し、被験化学物質について相同的試験を組む準備を行った。ヒトにおけるリスク評価に役立つ情報を提供することを目的としている本研究においてこのように霊長類とげっ歯類を極めて相同する条件で比較する実験系の確立は重要である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の最終目的は実験動物を用いた結果をヒトにおけるリスク評価に役立てるために個体レベル・細胞レベルの試験で蓋然性を高め、カニクイザルとラットを材料とすることで霊長類とげっ歯類の間にある種差の有無・程度の評価を一連のバッテリーとして組むことを目指している。この目標に向けて今年度は貴重な実験動物であるカニクイザルを将来的に個体レベルの実験に有効利用すべく脳発達の基礎情報収集に集中した。また細胞レベルについては同一の試薬を用いてサルとラットの培養系を確立することに成功した。以上のことから3年計画の1年目として順調に進展しているといえる。
本研究課題の応募時はある意味古典的な影響評価系バッテリーの構築を提示したが、特に細胞レベルの評価系では昨今の技術進歩に応じて細胞毒性、遺伝子発現、タンパク質発現での評価にとどまらずsiRNAによる遺伝子のknock down等を行うことにより影響メカニズムの解明も視野にいれて評価系の充実を目指す。
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Journal of Neuropathology and Experimental Neurology
巻: (掲載決定)
Journal of Neuroscience Research
巻: 90 ページ: 981-989
10.1002/jnr.22830
Comparative Medicine
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Journal of Toxicology and Pathology
巻: 24 ページ: 215-22
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