土壌汚染対策法によって定められている対策は,原則として不溶化処理のように現場内において汚染のリスクを低減することを目的とした措置である.不溶化処理は,廃棄物資材を有効に活用し,安価に実施可能であるにも関わらず,科学的知見に基づく検討が不十分であるために普及が進んでいない.不溶化処理の適用を検討している自治体や企業が最も知りたいことは,「処理土の安全性」である.そのためには,処理によって重金属がどのような形態に転換されるのかを定性・定量することが重要になる.その結果,処理土の長期安定性の予測や生物影響評価が初めて可能になる. 不溶化処理が普及するためには,利用されている資材について,①重金属の不溶化機構,②長期安定性を明らかにする必要がある.本研究では,これらの点について解明するための実験を行い,成果を重金属汚染土壌の不溶化処理の普及につなげることを目的とした. 昨年度から引き続き取り組んでいる研究である,廃棄物を利用した不溶化資材(卵殻,菜種残渣など)を利用した土壌重金属の不溶化実験を行った.これらの不溶化資材は土壌中の鉛およびカドミウムの溶解性を有意に低下することが確認された.卵殻については,高温処理により鉛の不溶化効果が高まり,その機構として土壌pHの上昇にともなう土壌鉱物の溶解と共沈が関わっていることが推測された. 加えて今年度は,主としてゼロ価鉄を用いた不溶化試験を実施した.ゼロ価鉄を用いたカドミウムの不溶化試験は,水田の湛水状態の土壌(還元状態)を模擬したカラム実験を実施した.ゼロ価鉄の添加は,土壌の酸化還元電位を急激に低下させ,それに伴って土壌溶液中に溶出するカドミウムの濃度も低下した.これらの効果は,ゼロ価鉄を添加しない場合よりも顕著であった.
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