研究課題/領域番号 |
23681015
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松本 謙一郎 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80360642)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | バイオポリマー / 微生物合成 / バイオマス |
研究概要 |
近年、二酸化炭素排出量の削減が大きな社会目標とされるなか、プラスチック産業においても、原料を石油からバイオマスへ変換することが模索されている。中でも、ポリ乳酸(PLA)は、デンプンを出発原料として乳酸発酵と化学重合を経て合成されるポリマーであり、高い透明性と優れた加工特性を持ち、現在最も利用が進んでいるバイオプラスチックである。しかしPLAは、硬質性の材料であるため柔軟性が要求される用途には使用できないことが弱点として指摘されていた。 本研究課題では、微生物システムを利用して高付加価値のプラスチック材料を生産するために、多様な新規バイオポリマーを合成できるフレキシブル微生物工場を開発する事を目的とした。この目的を達成するため、多様な構造のモノマーを供給し、かつ重合できる代謝経路を微生物内に構築した。さらに、本生合成系を利用して、これまで報告例のなかったグリコール酸を構成成分として含むポリエステルの生合成に初めて成功した。これらの結果は、国際的な科学雑誌であるJournal of Biotechnology誌において発表した。さらに本バイオポリマー合成系を発展させ、乳酸と類似の構造を有し、これまで細胞内で合成された事のなかった2-hydroxybutyrate(2HB)の重合に着手した。培養条件等を適切に設定することで、ほぼ2HBから構成されるポリエステルを合成することが出来た。ここで注目するべきは、本システムが2HBの2つの鏡像異性体の混合物である安価なラセミ体を原料として、片方の異性体のみを含む高度に立体構造制御されたポリマーが合成可能な事である。この利点を生かし、2HBポリマーが透明性と伸張性に優れた物性を持つ事を初めて示した。これらの結果は、国際的な科学雑誌であるBiomacromlecules誌への掲載が決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、新規なバイオポリマー合成系を創製するための代謝経路の構築と、得られたポリマーの性質を解析することを目的としている。初年度において、乳酸と中鎖アルカン酸の共重合体を初めて合成し、さらにグリコール酸を含むポリエステルの生合成に初めて成功した。さらに次年度においては、新規ポリエステルである2-hydroxybutyrate(2HB)ポリマーの合成に着手し、狙い通り2HBを含むポリエステルの合成に初めて成功した。さらに、2HBのみを構成成分とするP(2HB)の合成が可能であることを見出し、本ポリマーの構造と物性が詳細に解析できたことは、期待以上の成果であった。一方、前年度合成に成功したグリコール酸ポリマーは、合成量が少ないため、物性の解析が完了しておらず課題を残した。これらの事から、本研究課題は、概ね順調に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまでに構築してきたポリマー合成系を発展させ、さらに多様なポリマーの生合成を目指す。加えて、細胞内に存在する代謝中間体に着目し、人工的に構築したポリマー合成系が細胞の中でどのように機能しているのかを明らかにする。これまでに合成に成功した新規ポリマーについては、組成の精密制御、および生産性の向上を図り、そのポリマー物性について、より詳しい情報を収集し、バイオマテリアルの分子設計のための指針を得ることを目指す。
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