研究課題/領域番号 |
23681021
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐々木 善浩 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90314541)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脂質ナノチューブ / ナノ粒子 / 細胞間コミュニケーション / 人工細胞膜 / リポソーム |
研究概要 |
近年、脂質から形成されるナノチューブ(脂質ナノチューブ)が遠距離の細胞間を連結することで細胞間コミュニケーションを制御していることが明らかになっている。脂質ナノチューブは細胞間コミュニケーションを理解するための新しい機構として基礎生物学的、医学・薬学的に極めて重要である。しかしながら、膜タンパク質を解析する場合に用いられる人工細胞(リポソーム)のように、脂質ナノチューブを人工系で容易かつ大量に作製する手法は未だ見出されていない。 このような背景をふまえ、本研究では、脂質ナノチューブを用いた全く新しい概念の細胞膜の連結手法を確立し、細胞から人工細胞、人工細胞から細胞、さらに細胞から細胞の物質、情報輸送による細胞内機能の制御とその解明を実現することを研究全体の目的とした。 当該年度においては、天然細胞間での脂質ナノチューブを介した物質、情報輸送システムの実現に重点をおいて研究を推進してきた。その中で、まずモデルとしての人工細胞間の脂質ナノチューブによる連結およびその手法の最適化を行い、区画化された微小流路中へのリポソームの固定化手法を確立し、これらの脂質ナノチューブによる連結を実現した。また、リポソーム-細胞間の脂質ナノチューブによる連結が可能であることを予備的に明らかにした。具体的には、Hela細胞と人工細胞膜を基板上に固定化し、本研究で開発した手法により、脂質ナノチューブが天然細胞に連結されうることを、蛍光顕微鏡測定などから明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画時において、平成24年度は脂質ナノチューブによる細胞間連結を行うことを主たる目的として研究を遂行した。具体的には、平成23年度までにその調製法を見いだしている脂質ナノチューブのキャラクタリゼーションを継続的に行うとともに、この手法の天然の細胞系への展開を試みた。 当該年度において、まずモデルとしての人工細胞間の脂質ナノチューブによる連結について検討をおこなった。人工細胞リポソームを、区画化された微小流路基板に固定化し、この系に電圧を印可し、ナノ粒子を掃引することで、リポソームからのナノチューブの形成が見られることがわかった。またこの際、リポソームの内水相に封入した水溶性の蛍光色素を蛍光顕微鏡観察することで、リポソーム間が確かにナノチューブで連結されていることを明らかにした。区画化に際しては、当初計画していたインクジェット卓上描画キットを用いた系においては望んだ結果が得られない可能性が高くなったため、より簡便にマスキングシールなどを用いた区画化を行い、当初に立案した目的を達成することができた。 また、天然の細胞間の連結においては、Hela細胞を用い、リポソームと共に基板上に固定化し、その後電圧印可を行うことで、リポソームから伸展したナノチューブが確かにHela細胞と連結されることを予備的に見いだした。この系では、細胞の固定化手法、基板上への細胞の固定化のパターン、電圧強度、などが最適化されておらず、細胞生存率に若干の問題があったが、原理的には細胞間連結が可能であることを示すことができた。 以上の結果から、研究代表者の所属機関変更に伴い、装置の移動、再セットアップ、研究場所および研究人員の確保などに想定していなかった時間をとられたが、おおむね計画したとおりの結果が得られたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、ナノ微粒子を泳動させることで脂質ナノチューブを作製する手法を確立し、外部場強度、粒子サイズ、脂質膜組成とチューブ形成との相関について明らかにしてきた。また、リポソームを固定化する手法として、ヒドロゲルマトリックス中への内包、アビジンービオチンやDNAなどの生体分子を利用した固定化について検討してきた。平成25年度においても、この脂質ナノチューブの作製手法のメカニズム解明や、脂質ナノチューブの特性解析などについての検討を引き続き行う。 また前年度においては、天然細胞間での脂質ナノチューブを介した物質、情報輸送システムの実現に重点をおいて研究を推進し、モデルとしての人工細胞間の脂質ナノチューブによる連結手法の最適化や、リポソーム-細胞間の脂質ナノチューブによる連結が可能であることを示してきた。平成25年度においては、細胞膜blebなどを用いて、細胞膜―細胞膜間の脂質ナノチューブの連結を実現する。また、脂質ナノチューブを介したDNA の細胞内導入に基づく細胞内蛋白質発現や、細胞からリポソームへの脂質チューブを介した細胞内物質の抽出、細胞間の脂質チューブを介した物質、情報伝搬による細胞機能解析および制御についての検討を引き続き行う。 これらに加え、平成25年度においては、電場、磁場のみならず、生体系に適用が容易な遠心力を用いた脂質ナノチューブ作製手法の確立を行う。また、微細加工電極とマイクロ流路を用い、二次元的に制御された脂質ナノチューブネットワークの作製について検討を行う。さらに、ナノチューブを固定化したヒドロゲルへの応力印可によるベシクルの放出について検討し、応力応答型ヒドロゲルによるドラッグデリバリーシステム等への応用展開の可能性を探る。
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